古都・京都では“よそ者”が元気

『京都で働く アウェイな場所での挑戦』アリカ編 新潮社

独立、起業はリスクを伴う。こんな不況時だからこそ安定した正社員のほうがいい。本当だろうか。確かにフリーランスよりは安定しているだろうけれど、会社はつぶれる。大企業でも倒産する時はあっけないものだ。つぶれなくても経営が傾きリストラされる。どっちにしたって厳しい世の中である。だからというわけではないが、それなら少しでも好きなこと、やりがいのある仕事をしたい。大したおカネにはならなくても、食べていければいい、と考える人も少なくないのではないか。

本書は、起業あるいは小商いをはじめて生業としている人たちを紹介した本。ユニークなのは京都に絞っている点だが、京都はもちろん、京都に限らず、独立に関心のある人にとっては役立つヒントが見つかるはず。

京都に憧れる人は多い。同時に敷居の高さを感じる人も多い。京都は伝統を重んじ、「一見さんお断り」に代表される保守的で閉鎖的なイメージが強い。「いけず」のような独特の振る舞いやしきたりもある。しかし、京都は1000年の長きにわたって都が置かれたところだけに、全国から人がやって来て住みついている。学生も外国人もたくさんいる。そして「伝統と革新」と評されるように、京都には新しいものを受け入れる懐の深さ、外に開かれた開放性がある。ベンチャー企業も数多く輩出。島津製作所、オムロン、ワコール、京セラ、任天堂、村田製作所、ローム、日本電産など名だたる企業が並ぶ。

本書のはじめに、「古都・京都では、案外“よそ者”が元気である」と書かれている。ここで取り上げられる9組10人も京都市以外の土地からやって来た、よそ者。京都でいうところの「よそさん」である。職業は染織、革細工、蒔絵師、ショコラティエ兼カフェ、コーヒー豆焙煎、パン屋、不動産業、ゲストハウス経営、観光業とさまざま。京都で働くようになった経緯もいろいろ。京都に憧れてやって来た人、大学生活を送った人、なんとなく居着いた人、大企業を辞めた人もいれば、職を転々としてきた人もいる。