「行不由徑」(行くに徑に由らず)――小さな脇道ではなく大きな道をいきなさい、たとえ遠回りにみえても平らで進みやすい、との意味だ。『論語』にある言葉で、脇道は近道にみえ、思わぬことに出会う楽しさがあるかもしれないが、やがて行き詰まる。それよりも大道を歩め、と説く。日本コカ・コーラでも資生堂でも、社員の創造力を引き出すのに近道など探さず、広い道をじっくりと進む魚谷流は、この教えと重なる。

アカデミー上級コースの最初の講義は12月3日で、場所は神奈川県・湘南国際村。毎年、全国の美容部員たちが研修を受けている施設と同じで、学長として演壇に立つ。自らの体験を背景に、マーケティング力の大切さを説いた。

この1年、商品力のほうも強化策を続けた。まず、グローバルブランド「SHISEIDO」の象徴として、乾燥などによる肌のダメージを克服する新美容液「アルティミューン」を発表。次いで、コラーゲンの最新研究成果を投じたスキンケア「エリクシール」、トータルメーキャップ「マキアージュ」の新シリーズを投じた。ここでも目先の成果を追うのではなく、長い目でみた力の再生を目指す。

昨年暮れ、中長期戦略「VISION 2020」を発表した。2020年度に売上高1兆円超、営業利益1000億円超などの目標が並ぶ。併せて「成長エネルギーが充満した会社」「世界中で話題になる会社」「若者があこがれてやまない会社」「若々しさがみなぎる会社」を、目指すべき会社像として掲げた。実現のために、マーケティングとともに、先端的な研究開発への投資を強化する。宣伝広告費も増やす。中長期的に底力をつけるためだ。ここでも、「行不由徑」を貫く。

資生堂社長 魚谷雅彦
1954年、奈良県生まれ。77年同志社大学文学部卒業、ライオン歯磨(現ライオン)入社。83年米コロンビア大学経営大学院修了。94年日本コカ・コーラ取締役上級副社長、2001年社長、06年会長を経て、13年資生堂マーケティング統括顧問。14年4月より社長。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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