「僕がやってきたのは、日産の営業として、自分が居るべき場所を常に探し続けることです」と安田さん。「そもそも営業は、何もしなければ行き場のない仕事なんですよ。営業マンにとって、居場所がないのが一番つらい」と語る。

「背負っているのは日産の看板だけ。店を出て、どこへ行って何をするかが決まっているわけではない。ですから、営業として勝負できる舞台を自ら開拓することが何よりも大きな課題です」

そのために安田さんが心がけてきたのは「自分がお客様にとって、どう役に立てるかを考え、行動で示すこと」だ。それができれば「お客様が自分の“分身”となって、手助けしてくれる」という。

20代で駆け出しのころは、夜討ち朝駆けのセールスもずいぶんやった。しかし、なかなか芳しい手応えが得られなかった。訪問先で叱られ、失敗を重ねて気づいたのは、「こちらの都合」を前面に出した営業は、客にとって押しつけがましい迷惑行為にすぎないということだった。

「食事時や仕事が忙しいときに来られても、お客様は困るでしょう。嫌われて『帰れ』と言われれば、居場所を一つ失うわけです」

当初はわざと相手が不在の時間帯に訪れ、名刺やメモ帳を置いていく。無論、電話が返ってこないことが多いが、そうでない人もいる。最初のコンタクトは1分でもいい。しかし、次に訪ねたときは10分、30分居ても厭われないようになりたい。そのために、商品を“売り込む”のをやめた。


顧客とは眼で接し、メモは取らない。後から思いついたことをダイアリーに書き込む。

「常にお客様から話をよく聞く。受け身でいるのが絶対重要です」

家族や仕事のこと、趣味や関心事など、客が問わず語りにする話に、真摯に耳を傾けた。

「訪問先の会社でも、車両担当や総務だけじゃなくて、掃除のおばさんや係員のおじさんも含めて、例えば100人いれば100人全員に声をかけてもらえるよう心がけました。その空間で、日産という看板を背負った営業マンを演じ切ることが大事。受け身といっても、逃げたらダメなんです」

すると、次第に客のほうから「○○という会社と取引したいのだが、営業でつてがあるなら紹介してもらえないか」といった相談事が舞い込むようになった。

「その場に自分が居て当たり前の状態になれば、頼まれ事が増えます。多くは、『○○のチケット取れない? 』等々、クルマの販売とは何の関係もありません。でも、最大限の知恵と人脈を使って動きます。(クルマを買ってもらえるのは)すぐにではありませんが、お客様に取引先やご家族、従業員をご紹介いただいています」

そんな顧客への「感謝の気持ち」こそ、安田さんの真骨頂だ。
 

(永井 浩=撮影)
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