「あなたと話がしたいんだ」

そんなことを言ってくる客がいるという。

手軽なネット取引が利用客を増やすなか、昔ながらの対面営業で投資家の心をつかむのが業界中堅の立花証券。立川支店一筋26年の田島雅明さんは、「とくに仕事とは関係のないことでも相談を受ければお応えしますし、雑談をすることもありますよ」とにこやかに話す。

一見したところ仕事とは無関係の相談や単なる雑談であっても、顧客との対話には営業マンにとって大切なヒントが含まれている。田島さんのように、顧客のほうから「話がしたい」と言われるようになるには、どうしたらいいのだろうか。

ここで紹介するのは、トップセールスの証言から構成した「話し方」や「聞き方」の実例である。

なかには他人には真似のできない、その人ならではのテクニックやスキルもあるだろう。しかし、どんな形であれ、優秀な人の話には何かしらのヒントが含まれているはずだ。

まずは、自動車業界の例から見ていこう。

月10台クルマを売り続ける「営業しない営業」

神奈川日産自動車 横浜中店 カーライフアドバイザー 部長 安田哲也氏●21歳で入社し、以来一貫して営業職。2004年、36歳で同社史上最年少の販売功労賞を獲得しプラチナクラブ入りを果たす。

顧客によく言われる言葉がある。「営業なのに、ちっとも売り込もうとしないんだね」。実際、「売るための営業をしているつもりはない」と安田哲也さんは言う。

日産自動車では営業職をカーライフアドバイザー(C/A)と呼ぶが、安田さんは神奈川日産自動車横浜中店のC/A部長。年間販売成績の優秀者に贈られる金賞を11回受賞し、2004年には全国日産販売店の功労者に所属が許されるプラチナクラブに入会した。いわば営業職の殿堂入りである。

営業歴24年。その間に販売したクルマは、あと30台で3000台に届く。一人月3台が平均というこの業界で、安田さんは月に10台近くを売ってきた計算だ。

「売る営業はしていない」のなら、売れる秘訣はどこにあるのか。