自分には企画力はなく、単なる新しもの好きの普通の人だと語る樋渡市長。CCCへの委託を思いついたきっかけも、テレビ番組『カンブリア宮殿』で、開店したての代官山蔦屋書店(東京)を見て感動したことだった。

「あ、これだ、これしかない! と直感しました。すぐにCCCにアプローチして、副社長さんと面会するために上京したら、偶然、代官山の路上にテレビで見た増田(宗昭)社長が立っていたんです。その場で『図書館の運営をお任せしたい』とお願いしました」

さすがの増田氏も驚いたことだろう。だが、真に驚くべきは実現に至るスピードだ。番組放送が11年12月末。翌1月には路上で増田氏の快諾を得て、5月4日に記者会見。今年4月にはもう開館にこぎつけている。路上で増田氏と遭遇したのは運といえば運だが、それを引き寄せたのは、ここぞと見たらすぐに動き出す行動力だ。

実はこの件、記者会見の時点では市議会の同意を得ていなかった。見方によっては博打である。だが、樋渡氏は「10割の確率でうまくいくと確信したから進めたんです」と涼しい顔だ。

「図書館をこういう形でリニューアルするのは反対しようがないほど『いいこと』ですし、議会の3分の2は僕の味方なので筋を通せば大丈夫。役人出身ですから僕は根回しが得意なんです。残りの3分の1も完成形を見せればわかってくれると確信していました」

樋渡氏の発想の原点は「自分が喜ぶもの、市民が喜ぶものをつくりたい」に尽きる。読書好きの氏は市長になって以来、「図書館をなんとかしたい」という問題意識を抱いてきた。開館時間が短く、入れたとしても「ワクワクできない場所だった」からだ。しかし、これという打開策はすぐには見つからない。そうしたモヤモヤを引きずっていたから、代官山蔦屋書店という格好のモデルを見出したとたん、企画を詰める間もなく一気に走り始めたのだ。

「僕は政治家なのでゴールを定めることと責任を取ることが仕事です。ゴールとは、CCCと組んで4月1日にオープンすること。その後の企画や実行は職員それぞれがやればいい。決裁権も与えます。僕へのホウレンソウは原則禁止です。そんなことをしていたら情熱が冷めてしまうから。当然、問題も生じますよ。だったら、そのつど修正していけばいいじゃないですか」

だから樋渡氏は、「企画力より修正力が大事」と言い切る。武雄市図書館も想定とは大きく異なる形で完成した。たとえば、スペースの関係で文具販売は中止、反発の大きかったTカードへの全面移行は断念して従来の図書利用カードも継続使用できるようにした。