社内で感じた不自然な違和感

昭和シェル石油 香藤繁常会長兼CEO

昭和シェル石油の副会長に就任したのは59歳。ビジネスマンとしての総仕上げの時期にさしかかっていた。1990年代半ばから、本社変革推進の旗振り役を務め、振り返ってみれば10年の歳月が経過したことになる。そのとき「このポジションが、私のキャリアにおける最後の仕事になるだろう」という感慨を持った。と同時に、任期中は全力を出し切り、有終の美を飾ろうとも考えた。

それまでの専務という立場は、社内のいくつかの業務ラインを統括する。日頃から同じ仕事をしているスタッフは気心も知れているし、共有する目的も同じだ。しかし、副会長は違う。担当する部門はなく、その代わり全社的な目配りが求められる。それだけに、新たに接する人たちには胸襟を開いて向き合わなければならない。そう思って、改めて社内を見まわした私は、何か不自然な違和感を持ったのである。

その感覚を分析してみると「社員が本音で話していないのではないか……」という結論に達した。もちろん、初対面ということもあるだろうが、報告や連絡に際して、自己防衛的な態度が感じられる。つまり「よけいなことを発言したら不利益を被るのではないか」といった恐怖感が気持ちのどこかにあるのではないかということだ。もし社員にそうした後ろ向きの姿勢がはびこってしまうと、やがて組織は機能不全に陥り、健全な発展が望めなくなってしまう。

私は、その原因がどこにあるのか自問自答してみた。そして気づいたのが、この10年間、トップダウンで強力に推し進めてきた変革の反動ではないかということである。昭和シェル石油は、今年が合併30周年なのだが、もともとアグレッシブな社風で、仕事においてはボトムアップの気風が強かった。そのことは、私自身が地方支店や海外での勤務で体験している。