今いるポジションによって、読むべき本は変わってくる。次なるステージに向かう階段を順調に上るためにも、現在の足場をしっかり固めるための指南書を手に取りたいものだ。
クリエイティブ・ディレクター、アート・ディレクター 
佐藤可士和氏

企業や商品のブランディングの仕事をする僕に課されたこと、それは「変化し続ける」ことです。だから、新しい発想を生み出すため、書籍やアート、人との会話を通じ、常にユニークなポイント・オブ・ビューを探しています。

その心構えは、企業の中堅層も同様でしょう。組織の不可欠な戦力となるためにはキープ・チェンジング。代わりの利かない人になるために、それまでにない視点を獲得するのです。

例えば、『ユダヤの「生き延びる智慧」に学べ』では、日本・日本人の世界のなかでの「立ち位置」がよくわかり、思わずハッとさせられます。企業活動であれブランディングであれ、結果的に世界のイニシアチブを握るのは一神教の欧米諸国。彼らにとって八百万(やおよろず)の神がいるとされるニッポン、いわば宗教観の違う国は特殊に見えるようです。

著者(ユダヤ教に改宗した日本人)は日本をアニミズムの国とも表現していますが、欧米の視点の是非はともかく、「日本はこう見られている」という意識を持たなければ、世界的にKYの烙印を押されかねないのも事実です。

好むと好まざるとにかかわらず、企業のグローバル化は今後進むでしょう。すると英語文化圏との付き合いも増える。僕もまさにその状況下に置かれることが多いのですが、世界基準のトレンドを定期的に追って「意識」を更新し、リテラシーを高めれば、企業内でも存在価値が上がるかもしれません。

『世界最高ホテル「ザ・プラザ」超一流の働き方』でも欧米の思想や、トップ層の発想を垣間見ることができますが、著者の日本人ホテルマンが当初、苦手な英語を4年間、毎日英文を1ページ書いて自信をつけ、マスターしたという実体験に僕は刺激を受けました。地道にコツコツ――。改めてその姿勢が自己変革の第一歩だと気付きました。『ブラックアウト』と『アンドレアス・グルスキー』は、世界に出ても引けを取らないビジネスパーソンを目指す人にこそ読んで(見て)ほしい、今日的なテーマの作品。前者は、大規模な停電後を描いたフィクションで、後者は、世界を代表するドイツの現代写真家の展覧会作品を収録したもの。

この2冊を知っていることで、仕事に直接関係のない文化への造詣の深さを人々に感じさせることができ、欧米人との交流においてもアドバンテージを得られるでしょう。特にグルスキーの写真には、見るものをハッとさせる純化した視点があり、仕事上の発想力のヒントにもなるかもしれません。『ごきげんな人は10年長生きできる』は欧米で広く認知されているポジティブ心理学をベースにした本。どちらかといえばネガティブ思考の日本人にとって、「ごきげん」を維持すること、思考メカニズムをチェンジすることが健康長寿のみならず、ビジネスパーソンとしての完成度を高めます。