しかし、コミーはもともと鏡メーカーではなかった。大手ベアリングメーカーのエンジニアだった小宮山栄社長が脱サラののち、1967年に開いた看板店が前身だ。店先に置く回転看板などを手がけていたが、あるとき凸面鏡を背中合わせにつけ、それをモーターで回す回転鏡を考えついたと、小宮山社長は振り返る。

「集客用の店頭ディスプレーに使えるのではと思い、77年の展示会に出展してみた。面白がって1個、2個と買ってくれる顧客はいたが、人気は芳しくなかった。そうしたなかで、あるスーパーから30個も注文がきた」

普通であれば「予想以上に売れた」と大喜びして終わりだっただろう。しかし、小宮山社長はそうではなかった。

「客寄せにしては多すぎる。『いったい何に使うのだろう』と気になった。私は『なぜ』と疑問に思ったら、それを解決しないと気がすまない性分。そこで半年ほどしてから、思い切ってそのスーパーを訪ねることにした」

スーパーは回転鏡を買った本当の目的を小宮山社長にすぐ教えてくれた。万引防止用だったのだ。スーパーは、商品の陳列棚がびっしりと並んでいるため、死角ができやすく、万引犯にとっては格好のターゲット。しかし、視野を広げる凸面鏡を売り場に置けば、店内のすみずみまで見渡せる。小宮山社長にとって予想外の用途だった。

その後、事務用品を取り扱う会社からも「万引防止用に文具店に売り込みたい」という引き合いがあった。小売店向けのニーズが高いと確信し、「回転ミラックス」と名づけ、本格生産に乗り出した。それが、コミーが特殊鏡メーカーに転身するきっかけとなる。