税制や教育制度を自分たちに有利に変える富裕層

これを受けて、ピケティは「国民の経済格差を縮小することが経済の成長を促す」として、グローバルな累進課税制度の創設を提言している。

金融資産や不動産に対し、年0.3%から最大で10%を課税する。また所得税の累進性を上げ、年間50万ドル以上の所得に対しては、80%程度の限界税率を課する。ただし一国だけでこれを行うと、富裕層がその国から逃げ出してしまうため、各国が協調してグローバルに同じ制度を導入する必要があるという。

ピケティによれば、「第二次世界大戦後の格差縮小をもたらしたのは、戦後に導入された累進性を持った所得税と相続税である」という。ただ、こうした制度的工夫によって格差拡大を防ぐことは可能だが、富裕層は政治的にも力を持つので、税制や教育制度を自分たちに有利な形に変えてしまう、と述べている。

ピケティの議論は、日本の格差問題への関心の高まりのタイミングをうまく説明している。データ上、日本で資産格差が大きく拡大したのは、地価が高騰した1980年代のバブル期だった。

しかし、当時はさほど格差が問題視されることはなかった。実際に日本で格差について言及されることが多くなったのは、小泉政権が誕生した2000年代前半からである。

それはバブル期までは資産価格と同時に所得も大きく伸びており、「今は年収が少なくても、やがては自分も所得が上がって、資産を持つことができる」という先行き期待があったためと考えられる。低成長が資産所得比率に影響を与えるのに少し時間がかかるという理由もある。