『官僚たちの夏』に男のロマンを感じた

【塩田】大学を出て通産省に入った理由と動機は何だったのですか。

【齋藤】学生時代に読んだいくつかの本の影響ですね。親類縁者に政治家も役人もいないけど、『官僚たちの夏』(城山三郎著・1975年刊)と『通産省と日本の奇跡』(チャルマーズ・ジョンソン著・矢野俊比古監訳・1982年刊)を読んで通産省に入りたいと思いました。ちょっと言葉が古いかもしれないけど、『官僚たちの夏』で、自分たちがこの国をよくしていくという気概で仕事をしている姿に男のロマンを感じたんです。

【塩田】通産官僚、埼玉県副知事を経て衆議院議員になりましたが、なぜ政治家に。

【齋藤】23年間、役人をやってきて、非常におもしろくて、いろいろなポストを経験し、充実した日々でした。大臣秘書官も務め、政治と接点を持ってきた中で、言い方が難しいのですが、このままでは政治のあり方が心配になった。23年の間にそれを見てしまった。

【塩田】何を見て、どういうふうに心配になったのですか。

【齋藤】要するに、子供が川で溺れているのを見てしまったんですよ。日本という国がこれから大変な時代を迎えていて、このままでは本当に溺れるのではないかという政治の現実を、政治の現場でいくつも見てしまった。それはもういろいろなケースありました。

子供が川で溺れるのを見てしまった以上、選択肢は2つしかない。見なかったことにするか、助けるために飛び込むか、どっちかです。私は子供が泣いて流れていくのを見てしまった以上、助けられるかどうかはわからないけど、飛び込む方を選んだ。一言で言うと、それですね。そうしたら、自分が溺れちゃったんです(笑)。

【塩田】副知事の後、2006年に選挙に出て一度、敗れ、初当選は09年の総選挙ですね。

【齋藤】溺れて3年4ヵ月、浪人しました。日本が溺れるのを見て飛び込んだのですから、別に自分が何かになるといったことは全然思わない。今日一日、明日一日、この国のために自分は何がやれたのか、何ができるのか。それだけです。農協改革で今、巻き込まれたから、お門違いのキャリアでも、なんとか挑戦し、今日、自分はこういう貢献したこういうふう頑張ったから少しよくなったと毎日、日記に書く。それができれば十分なんです。

【塩田】子供が溺れない川をつくる、つまり日本をこんな国に、こんな政治にしなければという考えはありませんか。

【齋藤】そんな大それたことは考えませんね。

【塩田】衆議院議員となって5年余が過ぎました。「溺れる日本」という現実はそのままかもしれませんが、現代は歴史の中でどういう時代だと思いますか。

【齋藤】今、転換期ですよ。日本の将来がかかっていますね。