わが社の経営理念も稲盛さんのアメーバ経営理念と似ています。すべての従業員に競争に参加してもらい、目標に達成するため、直接市場に目を向け、価値をつくり出すというところまでは同じだと思います。ただ、稲盛さんのアメーバ経営理念は目標を達成した従業員への評価が主に精神的なものですが、私たちはその従業員には成果としての経済的恩恵も与えています。そういうところは、稲盛さんのアメーバ経営理念とはまったく同じではないと思います。いまの時代、従業員に昔のように忠誠心を求め、団体精神を重んじるだけでは難しくなります。稲盛さんがわが社に来られたときも、私たちのやり方を見て、非常に新鮮に感じていらっしゃったようです」

ハイアール製品は日本市場でも存在感を高めてきた。

ハイアールはいまや白物家電で世界1、2を争う多国籍企業に成長し、8万人もの従業員を抱えている。その巨大になった企業を経営するため、そして厳しい市場競争に勝つために、張氏は自ら改革のメスを入れている。近年、会社全体を2000あまりの自主経営単位に分け、これまでの社内秩序と構造を完全にひっくり返した。社内からの抵抗も非常に大きかった。

なぜそこまで自ら改革を行わなければならないのか、という私の質問に対して、張氏は次のように答えている。

「グローバル市場に進出するには、自分自身を調整しないと勝てません。企業は『オオカミDNA』を忘れてはいけません。変化する消費者のニーズを瞬時に掴み取る必要があります。これは私たち中国企業または日本企業のみならず、世界中の企業が取り組むべき課題なのです。

日本企業の近年の状況を見ると、松下幸之助さんや稲盛和夫さんのような先輩の企業家たちは苦労して九死に一生を得たような形でいまの企業をつくったのですが、いまの企業家たちは起業した経験がないため、先輩のように苦労を積み重ねて勝ち抜くという体験が足らないような気がします」

つまり日本企業の成功と失敗からハイアールとして取り組むべき課題を見出そうと懸命に学んでいるのだ。張氏が率いるハイアールの、学習と挑戦と邁進の作業は今日も続いている。

(的野弘路=撮影 莫邦富事務所、Imaginechina/アフロ=写真)
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