担ぎ手がいなければ神輿は舞えない

驚くことに、世の中には「ウチの社員は馬鹿だから。出来が悪いから」といった、耳を疑うようなことを平気で言う経営者や後継者が存在する。信じたくないが、これは事実だ。

社内のトラブルの90%以上は、コミュニケーション不足から起きる。言葉で伝え、言葉で動く限り「言ったつもり」「言わなくても大丈夫だろう」「聞いていない」ということは必ず起きる。それをなくすために、社内に仕組みを作ることが必要であり、それを作るのが経営者の仕事だ。

そういったミスは誰にでも起きることだ。そんなミスやちょっとした行き違いに対して、そうした仕組みを作ることもせずに、頭ごなしに「バカだから」と怒鳴りつけ、できないことを社員のせいにする。

これは大きな間違いだ。社員が悪いのではなく、はっきり言ってそんな会社の状態にし、社員をそんな状態にさせている経営者がすべて悪いと断言できる。さらに厳しいことを言うと、仕事ができて頭がよかったら良い会社に就職するのが当たり前だから、自分の会社の社員の頭が悪い、出来が悪いというのは、「経営者が良い会社を作っていないからでしょう」ということになるわけだ。

後継者を「神輿」にたとえることは多い。当然のことながら、「神輿」というのは担ぎ手がいなければ、宙で舞うことはできない。「神輿」をしっかりと支え、担いでくれる社員たちがいるからこそ、宙で舞っていられるのだ。「神輿」だけがあっても、それはただの飾りにすぎない。担ぎ手がいるからこそ輝くことができるのである。

こんな当たり前のことをわかっていない後継者があまりに多い。「神輿」である自分を担いでくれるのは当然だと思っているが、「こんな神輿を担ぎたくない」と思われてしまったら、すぐに誰も担いでくれなくなる。「担ぎなさい」と命じて強制的に担がせても、いずれは離れていってしまうだろう。

こんな会社があった。離職率があまりに高いので原因を社員に聞いてみた。すると、後継者があまりにも暴君なのだと言う。ミスがあれば社員を罵倒したり、執拗に責めるというのだ。休みでも夜中でも関係なく連絡が来るそうで、ときには社員の両親に対しての暴言まで言うというのだから驚きだ。これでは社員はたまらない。新入社員が半年も経たずに辞めていくのも仕方のないことだろう。

しかし、こんな人に限って自分では気づかないものだ。「ウチの会社よりいい給料がもらえないのに辞めるなんて、馬鹿な奴だ」とどこ吹く風である。こういう後継者は大きな失敗でもしない限り気づかないだろう。会社は人がすべてである。こういう会社の業績は上がるわけもなく、ジリジリと下降線をたどる運命にあると私は思っている。どこかで気がつかなければ、会社そのものも危なくなるだろう。

「神輿」は社員という担ぎ手があってこそ存在意義があるということを、後継者は絶対に忘れてはいけない。そんな当然のことを忘れている、あるいは理解していない後継者が“上から目線”の勘違い後継者になってしまうのだ。