卒業基準と入学基準

サラリーマンの出世について、以上とはちょっと異なる視点を提供してくれるのが人事コンサルタントの平康慶浩氏だ。ベストセラーとなった著書『出世する人は人事評価を気にしない』では、役職による登用基準の違いを「卒業基準」と「入学基準」という言葉で表現した。

「業種や個別の状況にもよりますが、大企業ではおおむね課長の手前までは目の前の仕事ができる人が出世します。小学校を卒業して中学校に入るような『卒業基準』です。でも部長や役員に進むには大学入試に合格するような『入学基準』が適用される。つまり、上の役職に見合う判断や組織運営の視点で登用されるのです」

ただし、現場の仕事が経営判断に直結するような業種では、役員クラスでも「卒業基準」が適用される。「たとえば金融の中でも証券、とくにファンド系はそうですね。アナリスト的な仕事ができなければ投資判断ができませんし、投資判断ができなければ、顧客に自社の商品ファンドを勧められないからです」(同氏)。

一般に専門性の高い職種では課長以上でも「卒業基準」が適用される。たとえば製造業の知財部門など専門部署は、現場の仕事ができる人がそのまま部長になるケースが多いという。

小売りや飲食などサービス業の場合は、別の事情から「卒業基準」が適用される。「これらの業種は実績しか信じられるものがないので、成績を上げた店長をブロック長やスーパーバイザーに登用します。逆に別の評価制度を導入するのがむずかしい」。

アクセンチュアや日本総合研究所でコンサルタントとして活躍したのちに独立開業した同氏は、大企業だけでなく中小企業の実情にも詳しい。

「自社がオーナー系かどうかも判断基準となります。そこで出世する条件は、オーナー一族と家族ぐるみで付き合えるかどうか。中小企業では縁故で採用した人を、仕事ができるかどうかを問わず役員に取り立てる例も多い。役員にしてから、オーナー自らが育てるという考えです」