日本の現代アートを語る時、奈良美智と村上隆の名前は欠かすことが出来ないと思います。昨年の夏、ロサンゼルスのカルバシティに現代アートコレクターのスーザン・ハンコック氏がオープンさせたメイドカフェとギャラリーが一緒になったユニークなアートスペース「RyoalT(ロイヤルティー)」が出来ました。メイド服姿のスタッフは笑えるほどユニークですが、そこに奈良美智さんの作品がいくつか飾られていることが話題になっています。(名前の由来は、The Royal Treatment〈王室のもてなし〉とバラエティに富んだ紅茶メニューのラインナップによるらしい。)

2003年ヴェネチアビエンナーレの「ラウシェンバーグからムラカミまで」展で入口に展示された村上隆のルイ・ヴィトンのカラーモノグラム柄の屏風。
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2003年ヴェネチアビエンナーレの「ラウシェンバーグからムラカミまで」展で入口に展示された村上隆のルイ・ヴィトンのカラーモノグラム柄の屏風。

奈良美智さんは、無地の背景にちょっとすねたような女の子や犬を描いた作品で知られ、よしもとばななさんの書籍の表紙、ミュージシャン「少年ナイフ」のCDジャケットなどからじわじわと人気が爆発。展覧会はもちろん、ぬいぐるみ、Tシャツ、お皿や時計などのグッズも大人気で、現在では多くの熱狂的なファンを持つアーティストです。

一方の村上隆さんは、DOBくんというキャラクターを作品の中に登場させたり、ルイ・ヴィトンとのコレボレーションを世界的に成功させたり、自身がプロデュースする形で3部作となる世界巡回の展覧会を実施したりと、日本のポップカルチャーとアートをバイリンガルのテキストと共に、世界デビューさせ、経済的にも成功モデルを作り出した先駆者です。

なぜ奈良さん、村上さんが海外で受け入れられたのか。その理由の1つは、やはりマンガやアニメの影響を含んだ表現だったことが大きいと思います。例えば、奈良さんが描く作品の多くには背景がありません。街の写真館のスタジオには「ホリゾント」と呼ばれる背景となる壁があります。「ホリゾント」の効果としては、その前に立つ人や動物に視線が集中することがあります。際立たせるわけですね。

弘前で開催された「A to Z」展にて展示された奈良美智の「Walking alone」。
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弘前で開催された「A to Z」展にて展示された奈良美智の「Walking alone」。

逆に背景を描くと、その人物がどこにいるのか、どういう時代なのか、が特定されます。背景をなくすとそうした諸条件からフリーになるのがポイントで、マンガによく見られる表現方法です。また奈良さんの作品に登場する女の子や犬は、身体のバランスがデフォルメされているために、頭が大きかったり、胴体が長かったりアンバランスなサイズになっています。そのこともマンガと共通しています。そのうえ、必ず英文で言葉が入れられています。まさにマンガのストーリーの中から出てきたような絵画作品と言えると思います。

私が2006年、奈良さんにインタビューした時、とても印象的な言葉がありました。それは「僕は幸せな絵画を描いている」という発言でした。奈良さんの作品を紹介する場合に「不機嫌な顔した女の子」とか「やぶにらみな女の子の絵」というのが多かったそうなのです。しかし奈良さんは「そういうことを思ったことはまったくなかった」とのこと。むしろ素直になれない無器用な心とか、シャイな内面を描くことはあっても、不幸せとか不機嫌を描いているわけではない、というのです。

また、奈良さんの場合はロックミュージックの影響が大きいということも特徴の1つ。おそらくアーティストになっていなければミュージシャンだったと思いますが、作品のタイトルに音楽をイメージさせるような言葉があったり、作品の中にロックの歌詞が引用されたりして、知っている人にはたまらない魅力があるのです。