反論と戦略的行動を事前に練る

ローラー車のような強引な相手と交渉するときは、自分が守勢に立たされるような議論や状況を前もって予想しておくことが大切だ。「相手の認識を変える反論を用意しておく必要がある」と、シモンズ・スクール・オブ・マネジメントの経営学教授で、『Everyday Negotiation(日常の交渉術)』の共著者、デボラ・M・コルブは言う。その一例として、彼女は、中小のヘッドハンティング会社の社長が、長年のクライアントとの新しい契約交渉に入る前に市場調査を行ったことを挙げる。交渉の席で、クライアントは「御社の料金はサービスの割に高い」と主張した。しかしこの社長は、同種のサービスに対してライバル他者がどの程度の料金なのか市場調査していたので、自信をもって自社の価格を守り抜いた。

事態がまずい方向に進んでいるとき、どうやって時間かせぎをするか前もって考えておこう。たとえば「その数字については社に戻って確認しなければ」「上司に相談します」「ちょっと休憩を挟んではどうでしょう」等々だ。

時間の問題で相手が強く出るのを防ぐ方法はもう1つある。これは、自分が相手より合意を急いでいる場合は、とくに重要だ。自分のほうに余裕がなくても、あえて交渉の期限を長めに設定する(たとえば「1週間ほど必要だと思いますが、いかがですか」)。そうすれば、その期限を過ぎて相手がもっと時間が必要になった場合には、相手が不利になる。なにしろ、その期限については双方が合意していたわけだし、こちらがそれを守ったのだから。

複数の案を用意する

「1つの問題で対立して先に進めなくなる」のは避けるべきだと、ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスの助教授、ジュディス・ホワイトは言う。

こうした袋小路を避けるには、複数の案を用意しておくのが1つの方法だ。たとえば、メーカーに機械部品を納める契約の交渉で、1度かぎりの契約にして10万ドルで納品するという案に対し、3年契約を結んでその間ずっと価格を15%ディスカウントするという代案を用意しておく。代案を持ち出すことで、相手が何を重視しているか、感触をつかむことができるし、代案について話し合う過程で、相手が予想以上に柔軟であることがわかることもある。

決裂した場合の代替策を考えておく

取引をまとめようと必死になると、それが立場を弱くする。自分の立場を強くするために、この取引がまとまらなかったら、どうすればよいかを考えておこう。つまり、自分のBATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement=交渉が合意に至らなかった場合の最善の代替策)は何か、である。大切なのは、取引をまとめる必要があるのはこちら側だけではないかもしれない、ということを忘れないことだ。自分が交渉を打ち切ったら相手はどうなるかを、事前に調べておこう。

前述のゴードンは次のような実例を紹介する。あるエンターテインメント企業の幹部は、重要なサプライヤーとの交渉に入る前、相手が大幅な値上げを要求するつもりであることを知った。そこで、自社のエンジニアリング・チームに命じて他のサプライヤーに接触させ、取引相手を変える可能性を示唆させた。交渉相手のサプライヤーは結局わずかな値上げしか要求しなかった。

BATNAがわかっていたら、最悪どこまでの条件なら呑んでもよいかを判断しやすくなる。それによってあとで後悔するような契約に追い込まれる恐れが少なくなる。さらに、相手が頑として譲らないときは、こちらも同様にすべきときだと判断できるのだ。

(翻訳=ディプロマット)