相手が自分より強いと思うと、人は期待値を下げ、予想以下の結果しか得られない。これはビジネス交渉において最も避けたいパターンだ。不利な交渉も、技術次第で予想以上の結果を得ることは十分可能である。

合意を求めすぎると腰が引けてしまう

大手サプライヤーと新しい契約の交渉を始めようとしているとしよう。先方の担当者は、交渉相手泣かせで知られる押しの強い人間だ。だからといってあなたも臆病者ではない。相手と真っ向から勝負するつもりで交渉に入る。1から10まで勝ってやろうという決意は、相手の決意に劣らず固い──そして、期待以上の好結果を得る……。

このシナリオは現実的ではない。最近6回にわたって行われたある調査によると、これは希望的観測にすぎない。調査からわかったのは、タフな相手だと思ったら人は期待を下げて交渉に入り、予想より低い結果に終わるということだ。たとえば30分間のボーナス模擬交渉では、厳しい展開を予想して交渉に入った被験者は1万3130ドル、さほど手ごわい交渉相手とは思わずに交渉に入った被験者は1万5540ドルを勝ち取った。

「人は、手ごわい相手に対しては自分も強く出ようと思うものだ」と、ユタ大学デイヴィッド・エクルス・スクール・オブ・ビジネスの教授で同調査の実施者の1人、クリスティナ・ディークマンは言う。「だが、実際にその状況に直面すると、得てして譲歩する」。

なぜか。それはモチベーションに大いに関係がある。人は(交渉するとき)「合意に達したい。行き詰まりは避けたい」という欲求を持つ。そのため、手ごわそうな相手には確実に合意できるよう譲歩するのだ。この傾向を逆手に取ることはできないだろうか。

ディークマンら3人の研究者が行った調査によると、答えは「イエス」である。手ごわい相手だと思ってもらえれば、それはたいていの場合、有利に働く。しかし、厳しい状況では人は得てして譲歩するものだと認識しただけでは、戦い(の準備)は道半ばだ。その認識を踏まえたうえで、相手の強硬な姿勢の効果を最小限に抑える特別な措置を講じる必要がある。