若手同士で論戦、「成長」の掛け算に

40代に入るころまでは「自分で頑張ろう」との気持ちが強く、1人でやれると思えば、周囲には声をかけなかった。でも、42歳で酒類販売の課長となり、若くしてプロダクトマネジャーにもなると、部下には年長者もいた。彼らも含め、どうすれば士気が上がり、力を発揮してもらえるかを考えたとき、それまでの「自己完結型」の行動様式は捨てた。

営業部隊に10年以上いて、何が一番の喜びだったかを振り返れば、目標の数字を達成したときだった。士気のもとは、やはり数字だと思い、部下たちの年齢や経験に即して目標数字を設け、その達成感を味わってもらう。

基本的には、かなり頑張らないと達成できない数字を与えた。3回挑めば、1回は跳べるかもしれない高さ。よくある手法だが、これが意欲を引き出す常道だ。目標を低くして届いたときよりも、高いバーに挑み、それを跳び越えたときのほうが、喜びは大きい。それを、身をもって知っていた。

「反經而已矣」(經に反らんのみ)――君子の行動は、結局は物事の筋道つまり常道に返るとの意味で、中国の古典『孟子』にある言葉だ。常道は平凡な手法に映るけど、それこそが進むべき普遍的な道で、そこが定まれば人々も立ち上がる、と説く。「醤油の会社」の基本を崩さず、新商品の展開でもそれをベースに常道を進む堀切流は、この教えとまさに重なる。

2013年6月に社長になり、40代の社員を集めた「社長ミーティング」を始めた。よく言われるように、企業は人こそが最大の経営資源だ。もし、社員全員が一段階でもバージョンアップできたら、すごい力になる。それは、単なる足し算では終わらず、掛け算になって膨らんでいく。

その掛け算を引き出すために、社員同士が意見を交わし、刺激し合う場が社長ミーティング。自分はなるべく聞く側となり、必要があれば話に入る形にした。1回に約20人で2時間。テーマは決めておくが、ときに仕事と直接関係ないことも論じ合う。年間に10数回。週末にやった例もある。40代は一巡し、次は30代だ。

やはり、30代から40代には「反經而已」の姿勢は崩さずに、新たなことに挑戦してほしい。失敗を恐れて何もしない人よりは、失敗はあっても跳んでみた人を評価し、敗者復活の機会も与える。そう、幹部たちに徹底させる。

いま、次の中期経営計画(3年間)を策定中で、近く発表する予定。計画の最終年になる2017年に、会社創立100年を迎える。大きな節目に向けて、2030年を展望した長期ビジョンもつくっていく。そこには、夢も盛り込みたい。社員やステイクホルダーにとっての夢だけでなく、世界の消費者にとっての夢を描きたい。それには、社長ミーティングでの成果を期待する。

キッコーマン社長 堀切 功章
1951年、千葉県生まれ。74年慶應義塾大学経済学部卒業、キッコーマン醤油(現・キッコーマン)入社。2002年関東支社長、03年執行役員、06年常務執行役員、08年取締役常務執行役員、11年代表取締役専務執行役員。13年より代表取締役社長最高経営責任者。堀切家は同社創業八家の一つ。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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