醤油を軸に歴史を刻んできたキッコーマンが、「たれ」に進出することを決めたのは95年2月。社長に就任した茂木友三郎氏が、「積極果敢な会社だ」という海外での評価に対し、「おっとりしていて、おとなしい」との国内評価が不満で、「刺激を与え、挑戦する会社にしたい」として打ち出した。醤油、和風調味料、食品、業務用、デルモンテ、酒類、ヒゲタ・ギフトの七領域にプロダクトマネジャーを置き、横断的な連携がきかなくなっていた事業部制は廃止する。担当した「つゆ・たれ」は、和風調味料の領域だ。

最初に手がけたのは「つゆ」の開発。ちょうど、前の事業部が企画した新商品が発売された。でも、店で買うと、発売前に社内で試食したときの味と違う。ひとことで言えば、出汁がきいてない。「これでは、勝てない」と思い、その問題の解決から始めた。

6カ月間、週単位で、品質改良を重ねた。都内のプロダクトマネジャー室には、アシスタントマネジャーを含めて総勢は6人。「つゆ」の専門家は、いない。試食はできるが、つくることまではできないので、改良は千葉県・野田の生産現場へいってやる。やがて、温度や時間の管理など基本的な問題、とわかる。

半年かけて、ようやく納得するものができた。でも、今度は販促で苦労が続く。「つゆ」は、麺類だけでなく、サラダのドレッシングにも使うなど、利用場面が増えていた。ラベルをみれば、出汁も入っているし、甘味も入っていることに気づくから、料理人は「これ一本あれば、何でも済む」とわかる。当然、新たな使い方のレシピも開発する必要がある。結局、収益にめどがつくまでに約3年かかったが、常道ははずれない。