なぜ、ひとり暮らしが必要か

自宅から通える範囲に学校があるのに、なぜひとり暮らしをさせることにしたか、という話ですが、これは本人の自立を考えてのことです。私たち夫婦はともに地方出身者のため、大学入学時にひとり暮らしを開始しました。やはり、この時期にひとりで身の回りのことをしながら、勉強することは大事だという思いが強く、長男にも同じようにさせようと思ったのでした。

ひとり暮らしをすると、最低限の身の回りのことを自分でしなければなりません。自分の子どもが実家暮らしからそのまま結婚して、妻の家事負担を想像できない男になるのは、イヤでした。

彼女ができた場合も、実家暮らしとひとり暮らしでは、コミュニケーションの密度が違う気がします。また、ひとり暮らしのほうがいろいろと不自由なので、結婚したい気持ちが切実になるという効果もあります。

社会人になって働くようになったら、家賃を自分で払わなくてはならないので、むやみに仕事を辞められません。実家の場合は、稼ぎがなくなっても住むにも食べるにも困りませんが、ひとり暮らしの場合は、次の仕事が決まらないと辞められないでしょう。ひとり暮らしが出来なくなったからと親に頭を下げて、実家に戻ることのほうがイヤなはずです。

ひとり暮らしをさせて約1年。よかったことは、長男との衝突が減り、ずいぶんストレスが減りました。わが家から大学に通っていたら、「今日は授業ないの?」「夕飯食べる?」「まだ起きてこないの?」などと目につくので言ってしまいそうだし、だいたいそんなセリフから言い争いやケンカになるに決まっています。今はたまにしか帰ってこないので、近況を聞きながらご飯を食べさせるのも楽しいものです。

それに、同居していると、責任を全部に親に押し付けてきそうです。「うまくいかないのは、お前らがうるさいからだ」とか何とか……。「ふざけるな!」です。人のせいにする人生ではなく、自分で決めた道を早く歩んでほしいと思っています。

そして、いまだに人生迷い中の長男に問われて、先日クリアすべき項目を書いて渡しました。「自立までにクリアすべき項目」。

1. ひとり暮らしをする(これはクリア)
2. 大学を卒業する
3. 社会人になる
4. 経済的に自立する
 ――ここまでは親が援助する。

その先に、

5. 結婚する
6. 子どもをつくる

があるけれど、それは自分で決めてね、と伝えました。

ひとり暮らしをさせるためには余分なお金がかかります。しかし、これは「長男の自立のために必要な投資だな」と考えています。

まだまだ、4番までの道のりが遠そうです。妹も弟もいるんだから、お兄ちゃんだけで親のすねをかじりつくさないでね!

フリーライター 生島典子(いくしま・のりこ)
投資信託の運用会社、出版社勤務を経て独立し、2004年よりライター・編集者として活動。子育て、家計、住まい、働き方などが主な執筆テーマ。好きなことは、出産と住宅ローン。3人の子どもを助産院で出産した経験あり