大学受験にとらわれない学校文化

名門校に限らず、最初から「受験勉強だけをさせればいい」と思っている学校はほとんど存在しない。どんな学校でも基本的には教養主義や人格教育を旨としている。しかし大学進学実績を残さないと、優秀な生徒が集まらないので、まずは大学進学実績を安定させることに注力する。つまり、受験重視か全人教育重視かの違いは、教育理念の違いではなく、学校としての成熟度の違いだと考えたほうがいい。

すでに実績が出ている学校はそこを強調しなくていいので、結果的に教養主義や人格教育を打ち出せる。より本質的な教育に力を入れられる。「大学受験なんて小さな目標ではなくて、もっと遠い将来の大きな夢を掲げろ」と生徒たちを鼓舞できる。生徒たちもその気になる。結果、大学入試を、あくまでも通過点として、余力を残してクリアしていく。それが学校の文化として「当たり前」になっていく。

名門校の生徒たちは卒業するまでになんとなく理解する。先輩たちが積み上げてきた実績のおかげで、自分たちも目先の偏差値にとらわれない本質的な教育を受けられていることを。「自分たちだけそのメリットを享受して後輩に同じ環境を残してあげられないとしたらそれはかっこ悪い。先輩たちからの恩を後輩たちに返さなければ」と。いつの間にかそういう意識が芽生える。

高2までは保護者も先生も心配するほどにやんちゃやおてんばをするが、高3になると目の色を変えて受験勉強に取り組む。結果に納得がいかなければ浪人もいとわない。それが名門校の生徒に共通する意識だ。そうやって先輩が後輩の環境を守る文化があるからこそ、名門校は学校として、大学受験にとらわれない教育を続けられる。大学進学と全人教育の両立が実現しているのだ。