水素社会の実現はイバラの道か

「燃料電池の理論効率は80%を超えると言いますが、エンジンだってカルノー限界と呼ばれる理論効率はものすごく高い。理論値を言うのは意味がないんですよ。自動車用に向いている低温型の固体高分子燃料電池は、理論値よりはるかに低いレベルにとどまっていて、それを劇的に上げる特効薬はまだ見つかっていない。電気自動車との差を詰めるどころか、今のままだと技術革新が急激に進んだエンジンにキャッチアップされかねない」(燃料電池技術者)

それでもトヨタが燃料電池車に力を入れるのは、ひとえにエネルギーセキュリティのためだ。現在、原油価格が大幅に下がり、化石燃料の供給リスクが高まるという観測は大幅に後退しているが、トヨタは地球規模の人口増大と経済成長に伴うエネルギー問題は必ず再燃するとみている。それに備えた技術革新を今から促す必要があるというのは、長期的には至極妥当な戦略と言える。

「水素エネルギーが技術の妥当性を含めてメインストリームになるかどうかは未知数で、重要な要素技術を持っている企業も参入には二の足を踏んでいるというのが現状。現在の特許はすぐに陳腐化するという読みもあるのでしょうが、遠未来を念頭に置いたビジョンを立てて特許の無償化に本気で踏み切るのであれば、トヨタの行動力はすごいと思う」(前出のホンダ幹部)

水素エネルギーは安倍信三首相の打ち出す成長戦略に組み入れられており、マスメディアの論調も水素はバラ色といった太鼓持ちのようなものが多い。が、現実は水素社会の実現はイバラの道。トヨタの特許無償化という策が功を奏してプレイヤーが増え、困難をきわめる技術革新が生まれる原動力となるかどうか、その成り行きが大いに注目される。

【関連記事】
トヨタでも「燃料電池車」を普及させられない理由
エネルギー強靱化の秘密兵器は「水素」にあり
トヨタが燃料電池車に大きなパッションを注ぐ理由
世界が注目! 水素エネルギー新市場【1】
成長戦略の中核「水素ステーション」は危険すぎる