“領空侵犯”を推進する「マトリクス経営」

オリックスは、こうした組織のタコツボ化、硬直化から免れているのではないかとよく言われますが、私からすればまだまだで、常に縦割りを打破しようと試行錯誤を繰り返しています。私は常日ごろから組織図で動くなと言いつづけているのですが、なかなか社内に浸透しません。タコツボから出て周囲と連携をとろうという意識が、思ったように定着しないのです。

そこで私は「マトリクス経営」という言葉を使って、社内のセクショナリズムの払拭に努めています。縦糸と横糸で布を織るかのように、全国のネットワークでグループ内のあらゆる商品、サービスをセールスする仕組みを作り、それを全社員で実践していこうというものです。部署同士の領空侵犯を歓迎しています。そうすることで、グループの国内外営業基盤は無限の可能性を発揮することができるはずです。

ただ、やっかいなことは、タコツボ的発想は企業にとどまらず、日本の社会全体に蔓延しているということです。オリックスは金融業の一端を担っていますが、銀行や保険などを所轄する金融庁ではなく、経済産業省の監督下にあります。両方の業務を自由にクロスオーバーできればもっとおもしろいことができると思うのですが、今のままではそれができない。歯がゆい思いでいっぱいです。

これからの時代を担う若い方たちには、現状の組織のあり方がどうあれ、自分の意志としてタコツボに入らない、セクショナリズムに陥らないという強い決意を持ってほしいのです。その意識が周囲を刺激して硬直化した組織に活力を与え、自分自身の成長にとってもプラスに作用するはずです。

※本連載は書籍『グッドリスクをとりなさい!』(宮内義彦 著)からの抜粋です。

宮内義彦(みやうち・よしひこ)●オリックス シニア・チェアマン。1935年、兵庫県生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学にてMBAを取得後、日綿實業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現 オリックス)に転ずる。70年取締役を経て、80年社長兼グループCEOに就任。2000年会長兼グループCEO、14年より現職。ACCESS取締役、ドリームインキュベータ取締役も兼務する。
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