習近平が江沢民に勝った

【田原】今でも大きな影響力を持つといわれる江沢民(元国家主席)との力関係はどうでしょうか。

【丹羽】第一次習近平体制は、胡錦濤(前国家主席)と江沢民の政治闘争の結果、生まれたものです。7人の常務委員、いわゆるチャイナセブンのうち、習近平本人とナンバー2の李克強以外は江沢民の息がかかっていると思ったほうがいい。

【田原】でも、最近、周永康が汚職で失脚しましたね。バックには江沢民がいるので無理だといわれていましたが、習近平はやった。

【丹羽】習近平は「ハエもトラも叩く」といって中国共産党の綱紀粛正に乗り出しました。ハエは一般役人、トラは高級官僚です。周永康は序列9番目だった常務委員。いまだかつて常務委員に手をつけたことはなかったのですが、証拠をつかんだようです。もう一人、軍事委員会の副主席で、江沢民派の重鎮である徐才厚も党籍剥奪されましたが、これも証拠が挙がってしまったからです。証拠が出てきた以上、うやむやにできなくなったわけです。

【田原】江沢民がよく許しましたね。

【丹羽】習近平はとても賢い人で、この1年半でかなりの権限を掌握しました。中国共産党の中には、軍事や経済、金融など10の最高決定機関があります。それまで各機関の委員長は習近平と李克強の2人で分けていたのですが、今は習近平が7つを握った。その習近平が、8月後半から外遊を始めました。その話を聞いて、私は習近平が勝ったと思った。内部で江沢民ともめていたら席をはずせませんから。

【田原】習近平が江沢民に勝ったのですか。

【丹羽】10月20日から、四中全会(中国共産党中央委員会第4回全体会議)が開かれます。そこで周永康と徐才厚の問題が話し合われます。江沢民は最後のチャンスですが、おそらく反対できないのではないでしょうか(注:四中全会で周永康の処分は見送られた)。

【田原】もう習近平の政治基盤は固まったと見ていいですか。

【丹羽】まだ完璧に党を握ったというところまではきていないです。それでも17年からは盤石でしょう。第一期の習近平体制は17年に終わりますが、そのとき中央政治局委員25人のうち7割近くの委員が定年で辞めます。今、習近平は自分に近い優秀な若者たちを地方の書記に配置しているので、17年から22年の第二期にはこの人たちが上にくる。ここで習近平が本当に行いたい政策をいろいろと打ち出してくるでしょう。