親子のコミュニケーションはなぜ増えないのか?

では、コミュニケーション不足になる原因とはなんだろうか。「お互いが忙しく、時間がない」ということももちろんあるだろうが、それは言い訳にはならない。少しくらい時間を作ろうと思えば作れないことはないはずだ。

会社で顔を合わせているから家では会いたくない。会社の方針などで若干考え方が違い喧嘩になるので、どこかでお互いに遠慮してしまう。改まって親子で会話をするとなるとどうも恥ずかしい……。こうしたことがコミュニケーション不足に陥ってしまう主な原因だろう。

また、親子なのだから話せばわかるようなことであっても、はなから「ウチの父親は何を言っても聞かない」「息子に何を言っても無駄だ」「話さなくてもお互いの考えていることはわかっている」と思い込み、会話をすることすらしない親子も多い。コミュニケーションをとる前から諦めていては何の解決にもならない。わかり合っていると思っていても誤解であることも十分にあり得るはずだ。会話をしない限り、相手の本当の気持ちなど理解することはできないのだ。

顔を合わせるたびに喧嘩をしているような親子は、後継者である息子が一歩引いて冷静になることを覚えてもらいたい。喧嘩をするなとは言わないが、最後は後継者が謝ることを覚悟したうえでするべきだ。今は父親が会社の社長だ。「自分は後継者という立場で、会社を継ぐ側なのだ」ということを強く自覚して、後継者は我を通す前に父親である社長を立てるべきだ。

このように、ほぼすべての後継者問題はこうした普段からある親子間のすれ違いが遠因となっている。それがよくないことだと頭ではわかっていても、やはり簡単にはコミュニケーションを密にとることはできない。親子のはずかしさや遠慮というのがあるのだろう。難しいことかもしれないが、そういう場を作って距離を縮めていくしかない。

私の父親は日本経営合理化協会の理事長だ。私は協会の専務理事だがいずれは理事長の後を継ぐことになっている。私自身も後継者なのだが、父親の理事長とは週2~3日は同じ車に乗って通勤している。車中での会話はさまざまだ。仕事の書類を見ながら確認し合うこともあり、月次の報告であったり、相談事であったりする。もちろん、最近見て感動した映画の話で盛り上がることもある。

よく驚かれるが、理事長と2人で飲みに行くこともしばしばある。こちらから「行きますか?」と誘うと嬉しそうな顔をしてくれる。理事長から誘われることもある。「親子で仲が良くてうらやましい」と言われるが、親子で一度も飲んだことがないという人はぜひ自分から機会を作ってほしい。

親子の会話のなかに無駄なことなどない。「商売のアイデアのヒント」といった小さい話やビジネスに関わる話だけに留まらない。ときには重たい話にもなるだろう。親子でそういう会話をすることを避けたい気持ちもわかるが、それも含めてはじめて親子の密なるコミュニケーションが成立するのである。