多くの日本人は保守の柱を持っている

戦後日本の上昇期も私の内閣、せいぜい竹下内閣で終わった。歴史を振り返ってみても、上昇気流がいつまでも続くということはない。私は近代の日本は40年周期ぐらいの波を繰り返していると思っている。第1期は明治の近代化で幕を開け、クライマックスは日清・日露の戦争に勝ったことだ。第2期の40年は大正、昭和初期で、その間には大東亜戦争という悲劇に遭遇した。第3期の40年は戦後から2000年くらいまで。現代は第4期から9年が経過した波頭にある。しかし、いまだあるべき日本の姿が見えていないのが現状だろう。

『坂の上の雲』の時代、日本は西欧列強の風に取り巻かれていた。今は日本列島の上空でアメリカの風、中国の風、アジアの風が混流して吹き込んでいる。風をこなして上昇するには、風向きを読まなければならない。アメリカの風、中国の風、南の風、北の風、太平洋の風、アジアの風……。風は年中吹き付けているし、風向きも年中変わる。しかし、風の性格は二の次で、本当に大事なのは風を受ける主体である日本という国家、あるいは個人の志である。『坂の上の雲』には秋山兄弟を通して、新しい時代に立ち向かう明治人の不屈の志が描かれている。

「風見鶏」が、どのような風が吹いてくるのかを見分けるためには、中心になる立ち位置、芯が不動なポジションを持っていなければならない。人間で言えば、志や心の柱を持っていなければ政治家は務まらない。日本人は、聖徳太子以来の伝統で、外来文明というものを非常にうまく消化して自分の栄養分にしていった国民だ。明治維新以降は文明開化と称して、特にそれが顕著になった。その根っこにあるのは日本人として生きる志、私に言わせれば2000年の歴史と伝統を受け継いできた“保守”の柱である。

日本人は本来保守的で、多くの国民が保守の柱を背骨に持っている。だから民主党政権に変わっても、政治はさほど変わらない。自民党政権と同じようなことをやっている。何かといえば、歴史や文化、伝統を基軸にしながら新しいものを取り入れてゆくことだ。やっていることは同じなのになぜ先般の総選挙で自民党が敗北したかといえば、要するに飽きがきたということ。長くやって新しい時代をこなす国の方向付けをする政策に欠けた。そのうちに民主党政権も飽きられる。それが自然の摂理。政治学者はいろいろ屁理屈をつけて論ずるが、最大のポイントは無策で飽きられたことである。時代を更新する気力と戦力を持たなかった。