追体験すれば、理念は語れる

厨房革命を起こした松本氏が推進したもう1つの施策が理念研修だ。年1回全社員を対象に理念の理解を深めることを目的に、過去に同社が何を大切にして意思決定をしてきたか、その時社長はどんなことを考えていたのかを追体験する内容だ。

特筆すべきは、社長自らが語るのではなく、あえて社長以外の人間が語り部として手分けをして各拠点を行脚していることである。松本氏いわく「本人が話すと押しつけがましいが、他人が語れば聞き手は素直に受け止められる」。語り部には、社長を支える役員層と次世代のリーダーが任命されている。語る側になることで、彼らが理念を体現する度合いが一層高まることも期待できるからだ。

もちろん理念の語り手に任命するだけでリーダーが育つわけではない。人事制度の後押しもある。たとえば、同社では毎月昇格辞令が出る。力量のある人財の早期抜擢が可能なのだ。抜擢人事というと成果主義的色合いが濃いように聞こえるが、実際には成果だけでなく人格評価に重きがおかれている。

いくら成果を上げていても周囲から信頼されていない人は昇格できない。個人プレーで自分の成績だけ高くても駄目で、チームで成果を上げられることが求められる。ウェディングは、プロデューサー、プランナー、厨房、衣裳、サービス、さらには総務経理等も含め、分業しながらも相互に連携してこそ、高い顧客満足を実現できる総合力勝負のビジネスなので、チームワークが重視されるのだ。したがってリーダーにはメンバーからの信頼に足る人格が必須だ。

中には、入社わずか1年の若手がリーダーに抜擢され、その後2年で金沢の店舗の支配人を任された例もある。彼は「お客様の感動のために何をしたらよいか」を自ら考え実践した。北陸の雪降る夜、寒さに震えながら外でお客様をお出迎えすることも厭わなかった。人生の一大イベントをこの人たちに任せたいと思ってもらえるためにお客様の疑問や悩みにどう対応したらよいか、商談時の質疑応答のノウハウをメンバーたちに伝授することにも熱心に取り組んだ。そうした地道な取り組みの積み重ねが奏功し、自分の店舗を全国トップクラスの営業成績の拠点にすることができたという。

具体的には、360度評価で理念の体現度をランキングし、その順位で人格要件の見極めがなされている。理念に基づき人間的に成長すべく切磋琢磨していくことが評価制度によっても奨励されているのだ。