まず一つ目は、法を「利害」と徹底して結びつけてしまうことだ。

「信賞必罰」という四字熟語もあるように、法を守って努力すれば利益が得られるが、そうでなければ罰則を受けるというシステムを徹底化するわけだ。

実際、先ほど例にあげた飲酒運転は、2002年に厳罰化され、マスコミ等でも飲酒運転者に対する厳しい指弾の目が向けられるようになった。

さらにシートベルト義務化の結果も加わって、09年には、交通事故死者数が、何と57年ぶりに4千人台にまで減るという快挙が成し遂げられたのだ。

これは人びとの法律に対する思いが、「すり抜けてもOK」から「必ず守らないとマズい」に変化したからに他ならない。

しかし、この転換がうまくできず、悩んでいる組織も案外あるのではないだろうか。筆者も小売業の現場に10年ほどいたことがあるので、よくわかるのだが、せっかく作ったルールや規則が、現場で守られずに往々にして風化してしまう。最初は、「みなで守ろう」と意気があがっていても、時間がたつ内に、盛り下がり、なんとなく実行されなくなってしまうのだ。

この問題は、『韓非子』流にいえば、本人の利害と直接絡めれば解決する、という話になる。

さらにもう1つ、『韓非子』からは法の威信を上げる手段が読み取れる。それは、

「法の適用を公平にする」

ということだ。『韓非子』にはこんな言葉がある。

・法律の条文は、相手の地位が高いからといって曲げることはない。線を引くものさしは、相手が曲がっているからといって、それに合わせて曲がることはない。いったん法が適用されれば、智者でも言い逃れることができず、勇者でも抗うことができない。罪を罰するのには、重臣でも避けないし、善行は庶民でももれなく賞する(法は貴きに阿らず、縄は曲がれるに撓まず。法の加うる所は、智者も辞する能わず、勇者も敢えて争わず。過ちを刑するには大臣をも避けず、善を賞するには匹夫をも遺さず)有度篇

確かに、トップやリーダーにまで厳罰が公平に適用されれば、「この決まりは守らないとマズい」と組織が引き締まることこの上ないだろう。

飲酒運転が厳罰化されたさいも、マスコミが違反者――特に公務員の違反者を執拗に叩き続けた。魔女狩りのようだ、とその報道ぶりは批判されもしたが、同時に法の威信を周知する格好の材料にもなっていたのだ。