「総論賛成」の声をもっと大きく!

【宮内】やり方は2つあると思います。1つは、「総論賛成」の声をもっと大きくしていくこと。規制改革の全体像を話すと、みなさん基本的に賛成です。経済界でも、経団連や経済同友会は全面的にサポートしてくれました。ただ、各論になると反対が出てくる。ですから、「個別に反対している人はおかしいのではないか」という雰囲気が出てくるくらいに、総論を盛り上げていくことが大事。もう1つ、個別に反対が出てきたものについては細かく分析して、規制改革が一部ではなく多くの人のためになることを具体的に主張していかないといけない。これは、われわれというよりメディアの役目ですね。

【堀】メディアの影響は大きいですね。竹中平蔵さんに「批判三原則」を教えてもらったことがあります。批判には3つのパターンがあるそうです。1つは、反対のことを言う。たとえばスピーディに物事を進めていたら「拙速だ」と批判して、慎重に進めていたら「遅すぎる」と言う。2つ目は、感情に訴える。既得権益者の中に弱者がいると、ことさらにそれを取り上げて「かわいそうだ」と感情論に持ち込むわけです。3つ目がレッテル貼り。規制改革なら「あなたたちは市場原理主義者だ」と言って個別の議論を封じます。守旧派は、この三つのパターンを巧みに使って扇動します。

【宮内】おっしゃるとおりです。

【堀】一方、最近はソーシャルメディアが台頭して、マスメディアが取り上げない話も直接発信できるようになりました。そうすると言論が民主主義化して、規制改革への理解も広がると期待しているのですが、いかがでしょうか。

【宮内】規制改革の議論は専門的なところがあり、ある程度勉強していただかないと意見を持ちづらい面があります。そういう意味ではソーシャルメディアで訴えるのは難しく、ややこしい問題を深く分析して国民に訴えてくれる仲介者が必要です。いまも一生懸命やってくれている人がポツリポツリといますが、やはり影響力のある人が団結して継続的に訴え続けることが大切だと思います。日本の社会は、その場で「わかった」と言っても、本当にその通りに動いてくれるほどやわではない。影響力のある人が粘り強く言い続けて、「もう、あいつの言うことを聞かないとしょうがないな」とヘトヘトにさせるくらいでないと動きません。

【堀】日本版ダボス会議として2009年から続けている「G1サミット」で、僕たちはまさにそういうことを目指しています。政官財や学術、メディア、NPO、スポーツなど各分野の若手リーダーが集まって、あるべき姿を議論し、発信、行動する。それを続けることで、日本を変えていかなければならないと思っています。

【宮内】時代は刻々と変わりますから、日本も変わるのがあたりまえです。自分がそうした変化の推進力になるんだという志を持った人が、どんどん出てくるのは素晴らしいこと。大いに期待しています。3月のG1サミットには、私も参加させてもらいます。

宮内義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年、兵庫県生まれ。関西学院大学卒業、米ワシントン大学MBA。日綿実業(現・双日)から64年にオリエント・リース(現オリックス)へ。社長、会長を経て2014年から現職。規制改革会議議長などを歴任。近著『グッドリスクをとりなさい!』。
堀 義人(ほり・よしと)
グロービス経営大学院学長
1962年、茨城県生まれ。京都大学卒業、米ハーバード大学MBA。住友商事を経て92年、株式会社グロービス設立。日本版ダボス会議である「G1サミット」を主宰。一般社団法人G1サミット代表理事、経済同友会幹事。著書『人生の座標軸』など。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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