グングン業績が伸びた

稲盛さんが言う「社員の物心両面の幸福を追求する」ことがどれほど大切なのかを思い知らされました。小手先のハウツーを導入し、社員に厳しい要求をするだけではうまくいかないのです。

会社組織を5、6人程度の小集団(アメーバ)に分け、各部門に管理会計を導入し、部門別の採算がわかるようにしました。するとガラス張りのようにお互いの部署の数値が目に見えるので、小集団の競争意識が高まりました。同僚や後輩がいい成績を出したら悔しいと思って、みんなが仕事に励んでくれる。「なにやっとるんだ」と、私が叱責するよりも100倍の効果がありました。全員参加経営でモチベーションが上がり、業績もどんどんよくなりました。アメーバ経営を導入したおかげで、全国、海外100を超す事業所の経営が手に取るように見えました。そんな私に対して、稲盛さんはどこでお会いしても「業績はどうや?」と絶えず気にかけてくれ、厳しい言葉で指導してくださいました。

さすがに最近は叱られることは少なくなったのですが、私自身が経営の第一線から引退することを報告したときは、またきつい大目玉を喰らいました。

37歳から30年社長を続けたので退こうかと思い、盛和塾の定例会でビールを注ぎながら、「経営から退こうかと思うのですが」と相談しました。すると、「こんな飲んでいる席で簡単に言うな!」と、叱られました。その後、「ゴールデンウイーク中なら時間がなんとかとれるから、京セラの本社にきなさい」と言われて出向いたのです。

41歳の息子に譲るのは不安だと言うと、「辞めるなら経営からすべて手を引け! 経営の心配があるのなら、おまえがゴチャゴチャ指導するより、ワシが息子に指導してやるから、ワシのところに来るように言え!」と説得されました。

中途半端に口出しをして、社内が息子派と親父派に分裂してしまったら大変だから、新しい体制をつくらせたほうがいいというのが、稲盛さんの意図だったと思います。

さらに稲盛さんは、私が一線を退いても経営に口を出すと考えたのでしょう。ワタベウェディングの社員の前で稲盛さんは「30年間務めた社長を辞めることになった。ワシが辞めろと言った。名前だけの会長になって、一切仕事をさせへんから、後は皆でしっかりやってくれ」と念を押したのです。役員やその妻の前で言われて、すべて退くしかないなと完全にあきらめがついたのです。

バブル期を含め長い間に大きな誘惑も多々ありましたが、夫婦で学びご指導いただいたおかげで塾長の教えの「人間として何が正しいのか」という一点を判断基準として生き、経営にあたったことで大きな怪我や苦難にあうこともなく、無事にやってこられたことは、私の人生の最大の宝物です。

(牧野めぐみ=構成 熊谷武二=撮影)
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