表を拡大
内定後から万全の態勢でサポート

立志塾の受講者は各部門の将来の部長候補と目された人が推薦で選ばれる。期間は半年間。毎月、1泊2日の研修を実施する。ただし、学ぶのはMBAなどの経営リテラシーではない。「人間教育」の一語につきる。

「その名の通り志を立てること。仕事ができる、優秀な人材を育てる前に、人間としての奥行きを広げ、志高く会社で活躍してもらう人材を育てたいという思いがあります」(宮崎元専務)

研修ではトヨタのなかでどういうことを成し遂げたいのか、あなたの志とは何かについて真剣に考え抜く機会を提供する。さらに自分の志を実現するためにどういう人間、どういうタイプのリーダーでなければいけないのか、徹底的に考えてもらうことにしている。つまり、解を自分で見つけるのが最大の目的だ。

トヨタが選抜型の研修制度をつくったことに違和感を持った人もいるだろう。「全員の底上げ」を標榜する同社にとっては異例の制度ではある。宮崎元専務は「全体の底上げを図ることも大事にしていますが、グローバルに活躍できるそれなりの人の研修も大事。必ずしも選抜だけに重点を置いているわけではなく、基本は全体としての力を上げていくことにあります」とその趣旨を語る。

志を立てる指針となるのが、トヨタが今最も大事にしている「私たちの心構え」と題する10カ条だ。お客様第一、チャレンジ、改善、現地現物、質実剛健、チームワーク、当事者意識、謙虚・感謝、正直、愛社精神。この10カ条を書いたポスターが社内の会議室に貼られている。

「この10カ条を備えた人材に育ってほしいというのが根底にあります。自分のことも大事だが、会社をどのように持っていきたいのか、社会性の観点から考える。それから人としてあるべき姿とは何か。私がいつも言っているのは、人間力のない人がどんなことを言っても説得力がないということです。個人としてより、組織やチーム単位で仕事をしている以上、人間的魅力を身につけることが最も大事なのです」(宮崎元専務)

(ライヴ・アート=図版作成)
【関連記事】
トヨタが20年ぶりに係長を復活させたワケ
なぜ「できる人」より「好かれる人」が出世するのか
優秀な人材が働きたいと思う会社はどこがすごいか
トヨタでは"人望"がなければ出世できない
人事部の告白「40代で終わる人、役員になれる人」