現状にあぐらをかく社内の巨大組織

詳しく説明しよう。一般に本社部門はそのサービスを利用する社員にとってほかに選択肢がない独占主体である。独占主体は特定の人や組織が特定の財やサービスの唯一の供給者である場合に存在し、その財またはサービスを生産するための経済的競争もなければ存続能力のある代替財もないという特徴を備えている。市場で競争するために効率を高めたりイノベーションを起こしたりする必要がないので、時とともに効率が低下し、イノベーションが低調になって、「現状にあぐらをかいた巨大組織」になる。本社部門は、それがこの部門の唯一の役割ではないものの、間違いなく社員にサービス(財務・法務・情報サービス、市場調査など)を提供しており、唯一のサービス提供者である。人事部やITヘルプデスクのサービスに不満を持っていても、社員は別のサービス提供者に乗り換えることはできない。本社部門を強制的に利用させられるのだ。

だが、どのような働き方をするかとか、どこから支援を受けるかといったことを社員が選べる労働環境を会社が築いたら彼らはどうなるだろう。社員にサービスを提供するという仕事を獲得するために本社部門が、毎月、毎週、毎日、もしくはプロジェクトごとに競争しなければならないとしたら、どうなるだろう。

たとえば、社員が本社人事部の管理職研修と事業部門の営業部の管理職研修のどちらかを選べるとしたら、それぞれの研修提供者が顧客(この場合は社員)を獲得するためにサービスの内容、提供の仕方、コストを絶えず改善しなければならないだろう。そうしなければ廃業に追い込まれる(廃止される)おそれがあるからだ。

それぞれのサービス提供者は、自分たちのサービスが市場で利用できる管理職研修と同等もしくはそれ以上であるようにするために、外部に目を向ける必要もあるだろう。そうしなければ、やはり廃業に追い込まれるおそれがある。