2. 成功は忘れる
……成功体験が発想の幅を狭める

私はプロジェクトが終わると、どれほどいい結果が出たものでも一度忘れることにしている。景気がよくて売り上げが伸びているときは、成功した戦略を繰り返す意味があったかもしれない。しかし、成熟市場では過去の成功事例が通用しない。むしろ発想を狭めることにつながるので、意識的に忘れたほうがいい。

参考にならないのは、他社の成功事例も同じだ。もちろん成功事例を学ぶことが無駄とはいわない。ただ、過去の事例を学ぶのは「こういう考え方もあるのか」といった発想の幅を広げるためであり、事例そのものは参考にならない。状況が異なるところに過去の事例をあてはめても、99%はうまくいかないだろう。

成功事例があると、人はそれに寄りかかり、自分の頭で考えなくなってしまう。それに慣れると、いざ新しいアイデアを求められたときに対応できなくなる。私は人から「また同じことをやっているぞ」と指摘されることを恥だと考えていた。成功事例への執着を捨てるためだ。

3. 愛着を捨てる
……好きな商品の欠点は見えない

まず「自分が商品に惚れないとお客の心は動かせない」という人もいるが、私は反対だ。自社の商品に愛着を持つと、“あばたもえくぼ”で欠点までよく見えてしまい、冷静な判断ができなくなるからだ。

夜中に書いたラブレターを翌朝に読むと恥ずかしくなるが、ビジネスでも同じ。商品への思いが強い状態でマーケティングのプランを練ると、たいていは独りよがりなものになってしまう。

私は広告代理店から外資系の化粧品や高級時計の日本法人社長に転職したが、化粧品も高級時計も個人的にはまったく興味がなかった。しかし、興味がないからこそブランドや市場環境を客観的に分析することができた。もし憧れの目でブランドを見ていたら、「こんなにいいブランドなのだから売れないはずがない」と安易に考えて、詰めの甘いアイデアしか出せなかったに違いない。

いい商品かどうかを判断するのは、あくまでもお客だ。戦略を考えるときは、自分に都合のいい先入観は捨てて、「こんなものは売れない」という前提からスタートすべき。そのほうがいいアイデアを出せる。