ローソンへの転身は、前社長の新浪剛史氏との出会いで始まる。新浪氏が社長になった約半年後、ファーストリテイリングの社長になり、座談会をともにした。同じ慶大の体育会出身、米国留学、転職しての社長就任など、共通点が多く、たまに食事に誘われて、事業家同士の論戦もした。

09年ころから、何度もローソン入りを誘われた。だが、起業は道半ば、仲間も増えていて、簡単に頷くわけにはいかない。共同代表の知人も、転身には猛反対。それは、そうだろう。試合の途中でグラウンドを去っては、仲間を裏切る形になる。だが、新浪氏の誘いも生半可ではない。何よりも、ローソンの「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」という経営理念に、感銘していた。

「今後、流通や小売りの世界で戦っていきたい。その究極のグラウンドは、コンビニだ」との思いが、やがて、知人の心を動かす。リヴァンプには顧問として名を残し、2010年11月にローソンの顧問となる。翌春には副社長になり、国内コンビニ事業のCEOに就く。48歳になっていた。

思えば、出会いに恵まれた。元商社マンや新浪氏だけでなく、後で触れるが、20代での海外勤務も、米国留学でも、経営の多くを学んだファーストリテイリングへの入社も、そんな予測もしなかった出会いが生んでくれた。

「縁尋機妙」――縁はまた縁を呼び、言うに言われぬ不思議なものだとの意味で、8世紀ごろに日本に伝来した地蔵本願経にある言葉だ。「多逢勝因」と続き、そうした多くの縁こそがいい結果へと導いてくれる、と説く。自らの意思とは関係なく生まれる出会いを、正面から受け止め、その縁を生かして飛躍をみせる玉塚流は、この教えと重なる。