「新しいがん治療」の形をつくる

こうした状況を前に、特区構想を起案し、新しいがん治療の形を作ろうとしているのが、りんくう出島の石田行司社長である。

ゲートタワーIGTクリニックの堀信一院長とりんくう出島の石田行司社長(手前)。

「がん治療の目的は完治だけではないと思います。予後の延長、全身状態の改善、がんを抱えて思い悩む時間の短縮、QOLの向上、新しい治療法の提示によってがん難民を救済していきたいと考えました」

IGTクリニックのひとつ上の階に開設された「りんくう出島クリニック」では、がんに対する総合診療を行い、個々の患者のがん状態に合わせた、負担の少ない治療方法を患者やその家族と相談しながら決定していくプロセスを実践している。

現在行われている治療法は、がんは熱に弱いという特性から、高周波電磁波を用いて42℃を目標にがん細胞を加温し治療を行う「温熱療法」。

必要最小限の抗がん剤使用で、体力・免疫力を維持しながらがんの増大を抑え、QOL(生活の質)の向上を期待する治療方法である低用量抗がん剤・休眠療法。

ビタミンCが増殖の盛んながん細胞に取り込まれやすく、高濃度になると活性酸素を発生させ、抗がん剤として働くことを活用した高濃度ビタミンC点的療法。

多くのがん患者が低下している免疫力を、活性・強化し、がん細胞を自分の免疫力によって攻撃する免疫療法。

その他、食事療法、自然療法に至るまで、あらゆるがん治療を試すことができる環境を整えた。

「手術によってがんは治療できたが、その後、動くことができない状態になってしまう人もいます。逆に、がんの進行を遅らせて寿命を迎えるまで生き続けることができる人もいます。がんを完治させることだけが治療法ではないと思いませんか。どのようなプロセスをへて死に至るか。これが、私の考える新しいがん治療法です」

石井社長は、りんくう出島クリニックを、がん患者にとって「がん治療のナビゲションセンター」として位置づけている。りんくうタウンは、その考え方を発信するには最適の場所でもある。国内外の窓口となる関西空港を控え、長崎の出島になぞらえて「りんくう出島」という名前が生まれた。

「これからのがん治療は、どう生きるかを考えるスタンスで、取り組むべきだと思います」

石田社長は、特区が認められたことで、「りんくう出島医療プロジェクト」を打ち出し、新しいがん治療の道を提示できるビジネスモデルを構築しようと計画している。

(和田久士=撮影)
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