安倍首相の「パーソナルアジェンダ」

国民は望んでいない(都内の集会で集団的自衛権決定に抗議する人々)。
(AFLO=写真)

別のシナリオも考えられる。2年延命して安倍首相が何をやりたいのかといえば、本来のお家芸である戦後秩序の見直しであり、憲法改正であり、集団的自衛権をガイドラインに盛り込んで日米連携を強固にすること。選挙スローガンの「この道しかない」と首相が心に決めているパーソナルアジェンダとはアベノミクスではなく、そういう道なのだ。

しかし、それらのパーソナルアジェンダは、どれも国民的なコンセンサスを得られるほど議論が熟していない。与党の公明党だけでなく日本人の多くは戦後秩序を見直すことに懐疑的だし、憲法見直しには反対、原発の再稼働にも反対、集団的自衛権や日米ガイドラインは行きすぎだと思っているのだ。安倍首相の「この道」が本当はどの道なのか、国民も薄々わかっている。今回の総選挙、沖縄では自民党は全敗したが、安倍首相がわが道を突き進むほどに、沖縄と同じ反応が全国に広がっていくことになるだろう。

どうしてそれをやらなければいけないのか、安倍首相が国民にきちんと説明できれば克服することも可能だと思う。たとえば沖縄の基地問題がいつまでも解決しない理由は、軍政維持という沖縄返還時の密約にある。そうした真実を国民の前でつまびらかにして、「あのとき、我々の祖父や先輩方にはそれしか選択肢がなかった。拒否したら沖縄は還ってこなかった。沖縄の皆さん、国民の皆さん、どう評価されますか」と語りかける。

あるいは憲法問題でも、「現行憲法は日本に対する理解が少なかった人たちによって押し付けられたものであって、不備がたくさんある。皆さんのご理解を得て、今の時代に合うように見直したい」と真摯に訴えれば、国民の半分くらいはついてくると思う。

中国の戦後70周年の記念式典に参列し、「先の戦争で犠牲となった方々に哀悼の意を表します」と深々と頭を下げて献花すれば、近隣諸国との関係もだいぶ変わってくるだろう。

しかし安倍首相にそこまでの説明能力はない。相変わらず国民には本当のことを知らせない密約ベースの外交を繰り返し、閣議決定で憲法解釈を変更するだまし討ちのようなやり方でわが道を行けば、いずれ必ず国民にそっぽを向かれる。

そういう世論の変化には自民党の政治家は敏感だ。アベノミクスだ何だといっているうちはいい。アベノミクスの理屈はサッパリわからなくても、ついていくしかないと思っている。「アベノミクスで景気回復! この道しかない」と叫んでいれば選挙を戦えるからだ。