すし善は「北の迎賓館」とも呼ばれている高級寿司店だ。札幌の円山にある本店、電通本社ビルにある東京店など店舗は9店、従業員は180名である。創業社長の嶋宮勤氏は今もツケ台に立ち、寿司を握る正統派の職人だ。そんな彼はスピーチ上手としても知られ、年に何度かは国内だけでなく海外へも寿司の講演に出かけていく。

すし善では毎日2度、昼と夜の営業前に全員参加の朝礼をやっている。

朝礼の目的を嶋宮氏はこう説明する。

 「うちは9店舗ありますが、どの店もそれぞれ違っています。出すネタも違えば価格も違う。チェーン店ではありません。ですから、店の個性を際立たせるために、店長が自分のポリシーを従業員に徹底させなくてはならない。毎日の朝礼では店長が部下に向かってスピーチするのが主になっています」

見学したのは本店の朝礼。店長の大金有三氏も嶋宮氏に似て、話をするのが上手だ。

見学したのは本店の朝礼。店長の大金有三氏も嶋宮氏に似て、話をするのが上手だ。

朝礼の開始は午後3時過ぎになる。店長はカウンターのなかに立ち、部下の寿司職人、サービス係は1列に並ぶ。まずは一同、声を揃えて挨拶。次に店長が食材を解説する。

 「今日のマグロは北海道の戸井沖で獲れた本マグロ。1kg4万5000円です。それから今日はカボスでなく緑のレモンを使います。この時期はカボスより香りがいいから。レモンは佐賀産です」

こうして食材の情報を共有しておくと、客から「このマグロは?」と聞かれても、全員が即答できる。食材解説の後は予約客の紹介だ。本店には本州からやってくる客も多い。本州からの客には北海道産のカニ、ウニ、イクラをすすめ、地元の客には江戸前のコハダや煮ハマグリを用意していると伝える。事前に予約客の住所を知っておけば細かいサービスができるのだ。

朝礼の開始から予約客の紹介までの時間はおよそ5分。開店前の寿司屋は大忙しなので、朝礼はてきぱきと進む。その後、店長のスピーチがあるのだが、この日は社長の嶋宮氏が話をした。

(本田 匡=撮影)