2015年1月23日(金)

炙りスルメ鍋の衝撃

dancyu 2013年2月号

文・遠藤綾子 撮影・牧田健太郎 教える人:小林武志(「御田町 桃の木」オーナーシェフ)

主役はスルメ。酒の肴の、ぺったんこの、あのスルメである。「ふふふ。これがおいしい鍋の素なんです」とスルメを手に微笑むのは、中国料理店「御田町 桃の木」の小林武志オーナーシェフ。中国料理でスルメ? しかも鍋? 失礼ながら、つい疑いたくもなる。

食べやすく切った1枚分のスルメのほかに、ダイナミックに丸のままを追加した“炙りスルメ鍋 スペシャルバージョン”。蓋を取って登場した瞬間、皆が驚くこと必至だ。

「スルメは中国にもあって、スルメ鍋は家庭料理として親しまれているんですよ」。干し椎茸に始まって、フカヒレ、豚のアキレス腱、魚の浮き袋まで、乾物王国・中国では乾物は「乾貨」と呼ばれ、さまざまな料理に使われる。われらがスルメも「干魷魚(ガンイウユイ)」の名で流通しているそうだが、日本と違うのはその食べ方。炙ってそのまま食すことはなく、水などで戻して一素材として料理に使うというのだ。

「炒め物や煮込みが一般的。鍋料理にも使います。ちょっとやってみましょうか」と実演開始。焼き網で軽く炙ると、おなじみの匂いがぷぅんと広がる。ああ、燗酒欲しい……。うっとりしているこちらを尻目に、シェフはさっさとボウルに張った水にスルメをドボン! で、「これだけです」とひと言。待つことしばしでボウルをのぞくと、おおっ!

そこには肌に潤いを取り戻したスルメと黄金色のつけ汁が出現しているではないですか。

「そう。スルメは具材とだしの二役を果たすんです。炙ると香ばしさもプラスされるんですよ」。なるほど、つけ汁を口に含んでみると、旨味たっぷりなのにすっきりと澄んだ、意外にも上品な味わい。塩気もごく穏やかだ。「どうです? 納得でしょう? あとは土鍋に張ったつけ汁に、戻し済みのスルメとお好きな具材を入れて煮るだけ。これでスルメ鍋の出来上がりです」。中国料理の知恵と技が詰まった干物鍋はインパクト大。しかも、これはもうつくるしかない! のおいしさです。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

遠藤 綾子