ブランク前提の「女坂」が整備されてきた
リクルートキャリア●海老原嗣生さん

日本型雇用システムの特徴は大卒全員がエリートと目され、かなりの年齢までは年功で給与とポジションが上がっていくことです。出世する人しない人が早期に分かれる欧米とはまったく違います。特に大手企業の場合、遅くとも30代中盤に係長、40代中盤までに課長になるという暗黙の了解があり、そこから外れたらダメ社員、というのが通例でした。

ところが最近、超大手でこうした一律管理が崩れ始めています。40歳までに係長、もしくは50歳までに課長になればよい、という具合にかなり昇格年齢に幅を持たせているのです。明らかに出産や育児のハンディを負う女性を意識した制度変更だと思います。

また化学系の大手企業では、女性のキャリアに配慮し、地方勤務や営業といった出産・育児期に担当しにくい職務は20代のうちに先に経験させるという仕組みを導入しています。30代になったら、時間に融通が利く内勤部門で働いてもらい家事や育児との両立をしやすくする、いわば先憂後楽の働かせ方です。

一方、育児や家事を女性だけに押し付けるという考え方を改めさせるような動きもあります。たとえば、社内結婚比率が高い電機系の大手企業では、そうした社内結婚組に関して、妻の上司が夫の上司に対して、「私の部下だけが家事や育児のため早帰りを強制されるのはおかしい。時には夫であるあなたの部下も早帰りすべきではないか」という軋轢も生まれているそう。それを解決するために、社内結婚組の上司同士が話し合いを持つ場がつくられたりしているそうです。

登山道に男坂、女坂というのがあります。男坂は勾配が急な分、早く登れるのに対して、女坂はなだらかなぶん、同じ高さに登るまで時間がかかるけれど、いつかは合流します。いままでの日本企業には男坂しかなかったのですが、いまは女坂を用意する企業がどんどん出てきたということでしょう。しかも女坂だけではなく、社内託児所に代表されるように生活をサポートする仕組みも次第に用意されてきた。なぜ企業がここまでやるかというと、手塩にかけて育てた女性に辞められたら困るからです。

育児中の女性は女坂を、場合によっては夫婦で女坂を登っていけばいいんです。子どもを背負いながら、仲良く手をつないでね。いまのところ大企業が中心ですが、中小含め、日本の企業社会は確実にそういう方向に進んでいます。

海老原嗣生●リクルートキャリア
特別研究員

「『女子のキャリア』で女性活用の本質を説く」
(荻野進介=構成 市来朋久、尾関裕士=撮影 PIXTA=写真)
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