実際に、相続のもめごとは急速に増えている。家庭裁判所に持ち込まれる相続関係の相談件数は2012年には約17万5000件で、この10年でおよそ2倍というペースだ。遺産分割による紛争は10年には8015件のうち、遺産が5000万円以下の場合には70%を超え、1000万円以下でも30%を占める。典型例は、実家となる不動産とわずかな金融遺産で、特に不動産は公正に分割できないことが争いの原因になっている。実家を相続した人が不動産を相続した代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う代償分割の現金がない場合に、相続争いが起きやすい。

私にも財産が少なくても、もめるときはもめてしまうのかなと思えるときがあった。父が亡くなったときに、兄が身内との交流を絶っていたので、遺産分割協議書が作成できなかった。そのため家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てた際に裁判所から相続人に対し、相続の権利についてどう対応するのか問い合わせがあった。私は、「残された母の余生の生活資金に、すべての相続財産を回したいので放棄します」と書いて提出した。妹も同じ気持ちだろうと勝手に考えていたが、妹は「もらえるものは、もらいたい」と書いたという素直な気持ちの表れだが、こうした些細な気持ちの食い違いから相続争いに発展していく場合もあるのだろうと思った。いくら兄弟でも考え方やライフスタイルが違うそれぞれ家族をもち、経済状況が異なれば、なおさら争いの種は増えていく。遺産が入ることで相続人のその後の人生が変わることもあるからだ。

『遺言書キット 遺言書虎の巻ブック付き』(コクヨ)は、自筆証書遺言だ。本人が気軽に作成できる。遺言者の死後、開封せずに家庭裁判所に提出して検認を受けることで執行される。

子供同士が相続をもめないで解決する方法は遺言を書いてもらうのが一番。しかし、まだまだ元気な親に「書いて」とは言いにくいそこで効果的なのが、父親や母親も遺言がなくて苦労した経験があるはずだから、そんな話題が出たときに、家族で「お父さんの遺志を生かそう」「家族でもめたくない」と話せば、前向きに取り組んでくれるのではないだろうか。

遺言のハードルが高ければ、まずは法的効力はないがエンディングノートを書いてもらう。書店に行くとエンディングノートの隣には遺言書キットが置いてあり、一緒に買っていく人も多い。遺言書キットは文例まで付いていて、自筆証書遺言としての形式は整っている。私の母はすでにエンディングノーばかりか、遺言書キットも買って準備万端だ。