『ワンピース』型は現実では失敗する

成長するためには、優秀な人たちと、ゲゼルシャフト的なチームをつくらなくてはなりません。そのためには「自分は○○という人間です」というラベリングをすることです。

私の場合、メディアにでるときには「京都大学客員准教授」という肩書を使っています。私の本業は「エンジェル投資家」ですが、なぜその肩書を使わないことが多いかといえば、日本では「投資家」という職業のイメージがよくないからです。

ラベリングの目的はあくまで、人に評価・判断してもらうことです。他人からそのラベルを見られたときにどう思われるか。その視点をもちましょう。さらにいえば、目指したいラベルを自分で自分に貼ることで、自然に周囲も「そういう人」だと見なしてくれるようにもなります。

またラベリングでは「ストーリー性」を意識することが重要です。そこには驚きや意外性があるほどいい。アップルの創業者スティーブ・ジョブズは、「IBMを倒す」というストーリーを掲げました。まさかそんなことができるのか。そういぶかしむ人も多かったはずですが、ジョブズには人を惹きつける熱い思いと、世界ではじめて個人向けに大量販売されるパソコンを作ったという実績がありました。

この2つの要素を、私は「ロマンとソロバン」と呼んでいます。ロマンとは「自分はこのように社会を変えたい」という熱い思い。ソロバンとは「そのためにどれだけの人がお金を払って応援してくれるか」というコスト計算で、そのためには実績が欠かせません。この2つを備えたラベリングができれば、仲間づくりはうまくいきます。

言い換えれば、仲間づくりのポイントとは、「なぜあなたと仕事をしたいのか」を明確に説明できるかどうかです。その点では、人気漫画『ワンピース』で描かれるような仲間との関係性は、ビジネスの現場では通用しないでしょう。

『ワンピース』は、海賊となった少年モンキー・D・ルフィを主人公とする冒険譚。物語の軸は、仲間との厚い友情です。多くの仲間がルフィのために力を尽くし、そしてルフィもまた仲間のために命を懸けて戦います。感動的な物語ですが、現実では『ワンピース』的なチームは馴れ合いに終わり、ミッションを達成できないでしょう。『ワンピース』的なチームは、チームを守ることが目的になっているからです。

本来の意味での「チームアプローチ」とは、あるミッションを達成するために、最適な能力をもつ人間を集めること。ミッションと役割が明確であれば、「なぜあなたと仕事をしたいのか」という問いにも即答できるはずです。その問いに「仲間だから」という答えでは失格なのです。

ただし、ミッション達成を最優先に掲げると、組織が暴走し、モラルが損なわれる恐れがあります。カネのために何でもやる、というチームでは、持続的な成長は望めません。このため、チームにはいいビジョンが必要です。それは簡単にいえば、社会の誰もが応援したくなるようなもの。倫理性や社会性を伴わないような事業は、長続きしません。