「意味記憶」を「エピソード記憶」に近づけたい

【岩波】ところで、本書を書くにあたっても参考にさせていただいた、池谷先生の『記憶力を強くする』(講談社)が出版されたのが2001年。それから10年以上がたって、記憶についての知見もだいぶ変わってきたんでしょうか。

【池谷】そうですね。あの本も、そろそろ改訂しなければいけないと思っているところです。記憶について、新しい事実がたくさん判明しているので。たとえば、記憶力をよくするためには復習が大切だというのは常識です。でも、今はこういう復習のやり方はいいけど、こういう復習はダメということが、どんどんわかってきている。より効率的に記憶力を上げられる時代になってきた、といってもいいかもしれません。

【岩波】ちなみに、「短期記憶」とか「長期記憶」、「エピソード記憶」「意味記憶」といった基本的な分類というのは、いまだに変わらないのですよね?

【池谷】はい。記憶術的にいえば、意味記憶をなるべくエピソード記憶に変えたほうが覚えやすい、というのは大原則です。

【岩波】チェイン記憶術では、文章をゴロ合わせにしたり、イラストを描いたり、インパクトの強い「きっかけ」をつくってあげることで、意味記憶をエピソード記憶に近づけようと考えています。

【池谷】そうそう、覚えたい情報を別の文章にして覚えるチェイン記憶術って、「ラプラス変換」みたいだなと思っていました。ラプラス変換というのは、数学で微分とか積分をするための公式。簡単にいうと、いったん他の数式に翻訳して簡単な四則演算をして、また戻すと微分や積分が完成しているという魔法のような方法です。

覚えたい情報をそのまま暗記するのは大変だけど、チェイン記憶術では、それを自分の中でしか結びついてないシーンに置き換える。いわば別の物語が進行するわけですよね。村上春樹の『1Q84』のように、2つの世界があって、それがリンクしていって最後につながるイメージ。一度、自分の覚えやすいオリジナルのストーリーに翻訳して、最終的に記憶したい情報を引き出す。それで、これはラプラス変換だ、と感じたのです。

【岩波】なるほど! まさかラプラス変換の話がここで登場するとは……。今うかがって初めて気づきました。

【池谷】僕、高校生のときにラプラス変換で微分積分の問題を解いたら、高校の先生にすごく怒られて。こんなのは大学で勉強することだから使っちゃいけないと言われましたけど、受験ではそれを使って合格しました。まあ、どうでもいい話ですね、はい(笑)。

池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
東京大学薬学部教授
1970年生まれ。専門は大脳生理学。とくに海馬の研究を通じて、脳の健康や老化について探究している。最先端の知見をわかりやすく解説する脳のスペシャリスト。文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。『海馬』(共著、新潮文庫)『記憶を強くする』『進化しすぎた脳』(共に講談社)『脳には妙なクセがある』など著書多数。

岩波邦明(いわなみ・くにあき)
教育家/ルイ・イーグル代表
1987年生まれ。東京大学医学部卒業。中高校時代に「数学オリンピック」の決勝に二度出場。大学在学中に教育コンテンツ開発会社「ルイ・イーグル株式会社」を設立し、新しい教育法を開発。小学生向けの新しい暗算法を紹介した『岩波メソッド ゴースト暗算 6時間でできる! 2ケタ×2ケタの暗算』(小学館)は、学習参考書としては異例の大ヒットを記録し、シリーズ累計65万部を突破。最新刊は『人生が豊かになる〈岩波メソッド〉チェイン記憶術』(プレジデント社)。
(撮影=鍵岡龍門)
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