2014年12月26日(金)

師走の千両役者、寒ブリの登場だ!

築地、旬ばなし

dancyu 2013年1月号

文・福地享子 撮影・平野太呂

寒波到来。水っぱなをすすりあげちゃあ「コンチクショウ、なんだよ、この寒さは」。それでも暮れはいい。市場人たちは走る、奔(はし)る。かきいれどきがやってきた。

場内仲卸。店に届いた魚箱。氷を払い、出てくるのは寒ブリだ。これぞ師走の千両役者。まったく役者だよ、こいつは。なんたって眼がいいや。挑んでくるような、肝っ玉のすわった眼だ。背をさすってやれば、ピーンと張りがあって。まん丸で厚みがあって。包丁を入れると、真っ赤な血潮。腹には脂。北の海でしこたま餌食って、荒波を暴れ泳いできた証だ。

いやいや役者っぷりは、これだけに止(とど)まらない。市場人に気がかりなのは入荷状況。いいようにそれを弄(もてあそん)でくれるってのもこいつだ。築地が追いかける寒ブリは、北海道まで昇って、日本海を南下するそれ。佐渡で定置網漁が本格化するのが12月早々、次いで富山湾。ブランドネームとなった氷見や隣の七尾が水あげ港だ。最年末に向け、相場はジリジリ上がる。時化(しけ)ともなれば、ピーンと跳ね上がる。客の渋い顔が眼に浮かび、相場に八つ当たりだ。

ま、それぐらいならいつものこと。とんだ番狂わせのある年も。あれは2007年のこと。クリスマスが近いってのに、佐渡でも富山湾でもほとんどあがらなかった。やや身質は劣るが、福井の巻き網でとれたブリでしのぐしかなかった。今年は不漁、と諦めたとこへだよ、28日のせり場に、いきなり氷見ブリ1000本以上が登場。暮れのどん詰まり、大舞台に穴をあけずにすますとこなんざ、見あげた度胸だ。市場人はホッ。これで年も越せるぞと。

かと思えば豊漁で、ホクホクさせてくれた年もあるが、やっぱり市場人に印象深いのは、人間と同じで、キリキリ舞いさせられた年(やつ)のほうだ。

さて、今年の役者っぷりは、いかばかりだろうか。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。