体に悪いことを承知でやるのが俳優の仕事

『単騎、千里を走る』。同作は2006年、東宝の作品。日中の合作である。『単騎、千里を走る』は高倉健が出演したなかではあまり評価されていないようだ。公開時は反日デモがあったため、日本国内で中国映画を敬遠する雰囲気があった。そのため、この映画は通常の高倉健映画に比べると観客動員は少ない。

しかし、わたしはこの作品を評価している。高倉健がやりたくてたまらなかったものだからだ。高倉健とチャン監督の間で脚本のやりとりが始まったのは2000年のこと。撮影が始まったのは2005年。時間をかけて脚本を練り直し、そして、完成した映画である。

ロケの舞台は中国雲南省にある麗江だった。標高は2400メートル。高原で空気は乾燥しており、紫外線も強い場所だ。

高倉健はそこへひとりで出かけて行った。マネージャーも付き人も連れて行っていない。中国スタッフのなかに単身、乗り込んでいったのである。

彼はこう語った。

「『単騎、千里を走る』は三国志に由来するもので、中国の仮面劇の演目です。チャン・イーモウ監督から、その題名を聞いた時、僕は『ひとりでどこかへ旅する映画なんだな』とふと想像しました。

途中からスタイリストとヘアーメイクには来てもらいましたが、(麗江へは)ひとりで出かけていきました。題名通り、僕も単騎で撮影に臨んだ方がいいと考えたのです。

最初のうちは目が乾いて困りました。映画俳優という仕事は照明を目に当てられても、まばたきをしてはいけない仕事です。強い紫外線と乾燥した空気に適応するまでに10日間はかかりました。でも、そんなこと言っちゃいけない。体に悪いことを承知でやるのが俳優の仕事なんだから」

本作で、高倉健は漁師の役をやっている。息子は民俗学者(中井貴一 声だけの出演)。息子が病気になり、代わりに父親である高倉健が中国に出かけて、息子が果たせなかった夢を実現しようとする。