ビジネスパーソンにとって英語は、もはや仕事において不可欠なスキルだ。国内ではメールや電話対応くらいですんでも、出張や中長期の赴任となれば、ビジネス英語だけでなく、日常会話の能力も必須。これをビジネスパーソンに求められる最低の英語力として、どのように学習に取り組めばいいのか。英語ディベートの達人で、立教大学の教授である松本茂氏に聞いた。
松本 茂●まつもと・しげる
立教大学グローバル教育センター長、同大学経営学部国際経営学科教授、NHKテレビ「おとなの基礎英語」講師、日本ディベート協会専務理事。文部科学省「英語教育の在り方に関する有識者会議」でも委員を務めた。著書に『速読速聴・英単語Business 1200』『会話がつづく!英語トピックスピーキング Story 2 英語で仕事!編』(いずれもZ会)、『英会話が上手になる英文法』(NHK出版)など。

「まずは、自分のことを話せるようになること。そこからですね。ほかに、日本のこと、例えば時事的な話題など、テーマごとに1分くらいは話せるようにしたい。1分というと100から120ワードくらいですが、それくらい話すことができれば、簡単な質問にも答えられます。ビジネスパーソンの場合は、政治、経済、文化などの話題に加えて自分の趣味とか、世界共通のスポーツの話題、さらには会話の相手の母国の話題について、まず1分話せるようにする。これができれば、一応の会話は成立しますよ」

身近な教材を加工
英語をストックする

話す内容も、ゼロから自分で考え出さなくていいという。

「新聞でも雑誌でも、ウェブサイトでもいいのですが、あるテーマについて話をするためのモデルとなる文を見つけ、それを加工すると早いです。日々続けることによって、話したい文章を英語でストックできます」

当然のことだが、実際に話してみることも大事だ。では、国内にいて英語を話す機会をどうすれば作れるのか。意外なほど身近なところにその場はあると、松本氏は指摘する。

「いろいろな話題についての英語のストックを増やしながら、実際に会話を練習する相手を見つけたい。そんなとき、英会話学校はとても役に立ちます。学校を、自分の英語のアウトプットの場としてとらえると、講師や受講者を相手に練習ができる。さまざまな話題を英語で話す準備ができたら、それをいろいろな人に話してみることが効果的です。同じ話をいろいろな人に話してみると、人によって返ってくる質問が異なり、そのたびに、もっとこう言えばよかったという課題も見つかる。つまり、次のステップに進むために必要なことがわかるわけです」

ビジネスに関する英語の習得においても、同じやり方が通用する。最初はやはり、モデルとなる文章を集めることから始めるのが有効であるようだ。

「自分の仕事に直接関係のないものであっても、英語で書かれたドキュメントをできる限り読むのが基本でしょう。同僚が作ったプレゼンテーション資料でもいいし、客先から提示された文書でもいい。英文ドキュメントをとにかく集めて読み、状況に応じてどう書くか、あるいはどう話すかを、そこから学んでいきます」

英文でのメールのやりとりを日常的に行っている人の場合なら、メールの文章もまた大いに参考にすべきだ。

「例えば納期変更をお願いするときには、どのような言い回しをするか。納期が遅れてしまうことを謝罪するときには、どういう言い方になるか。そういうことを、先方からもらったメールの中から抽出し、仕事のための英語の辞書を作成していくわけです。例えば何かを依頼するときにはどんな言い方があるか。そのバリエーションを全部拾い出していく。同様に、謝罪するときにはどう言うかということも調べ上げていく。そうして、依頼とか謝罪といった表現の機能ごとに書き方や言い方をまとめていけば、それが仕事のための辞書になります」

例えば「謝る」にも‘sorry, ‘pardon, ‘apologize,などを使った表現が可能なわけです。では、どんな場合にどの表現を使うのか。それを判断するために、日頃英語でビジネスをしている相手が書いたメールの文面を参考にしようということ。「感謝する」場合にも、軽くお礼を言うのと、深謝するのとでは、当然のことながら使うべき表現も相手や内容によって異なってくる。これもまた、メールやドキュメントから適切な表現を抽出して覚えてしまうのが効果的ということなのだ。それができれば、改まって英語を学び直す必要はないと松本氏は言う。