しかし、このような「お互いを褒めあう自然な雰囲気」をつくっていくのは、職場のリーダー/管理者によるところが大きい。つまり、工夫のある「上司の評可力」が極めて重要なのである。

インセンティブのなかには「人的インセンティブ」というものもある。これは、組織を率いる人間(=リーダー)に「この人と一緒に働きたい」と思わせる力があれば、それがその組織で働く人の意欲の源泉になるということである。

「この人のためなら一肌脱ごう」と思わせるリーダーのもとでは、報酬に対する不満があっても、モチベーションを高く維持したまま働くことができるので、リーダーがメンバーにとって魅力的な存在であることは極めて重要である。

この人間的魅力を高めるのは簡単なことではないだろうし、一朝一夕にできることでもないであろう。「何事にも誠実に対応し、部下メンバーの成長を心から願う」など、私欲を捨てて愚直に行動することで少しずつ養われていくものではないだろうか。

また、この「魅力」はリーダー/管理者だけに求められるものではない。「この組織にはどのような人が集まっているのか」「そこでどのような関係が持てるようになっているのか」など、同僚にも求められるものである。報酬は低いし人事考課には納得できないが、辞めたいとまでは思わないという感覚は、組織内での仲間との人間関係が良好な場合に持ちやすい。

その意味でも、組織を率いるリーダー/管理者は、仕事の担当を決めながら、相互の協力がスムーズにいくような仕組みをつくったり、そうした情報を交換する行為を評価することが必要になる。また、職場内のサークルや同好会、歓迎会や忘年会などの職場でのイベント、ちょっとした飲み会などは、長らく敬遠される傾向にあったが、人的インセンティブをつくり出す土壌を形成するためには、有効な施策でもあることで、最近では復活することがよくあるようだ。