高い目標を与えると現場は「数字に逃げる」

昨年9月、創業90周年を迎える2016年3月期への経営目標を発表しました。EPS(一株あたり純利益)で50円という目標です。これは税前利益で2500億円に相当します。内訳は営業部門が1000億円、法人部門が1250億円、アセット・マネジメントが250億円です。

野村は数字の好きな会社です。最も強みのある営業部門では、昨年の状況でも、目標の倍近い数字を達成する力はありました。しかしその場合、数字に逃げるリスクがあると思ったのです。「根底からつくりかえる」という言葉のもう一つの意味は、本当に営業のスタイルを変えるということでした。そのために「今までの3倍の汗をかけ」と言っています。数字のための営業ではなく、お客様のための営業をしてほしい。結果は今までと同じで構わないが、そのために3倍の努力をしてほしい。そう指示しています。

たとえば営業部門では「ファミリー化」に取り組んでいます。国内営業では約定金額の約2割は高齢者のお客様からです。この場合、ご本人は正しくリスクを理解していても、ご家族もそうとは限りません。ご本人とだけではなく、ご家族を含めた営業スタイルに変える。それは長期的には預かり資産を増やすことになるはずです。

営業部門以外でも、「つくりかえ」を進めています。海外拠点では株式執行システムを電子取引専業の子会社であるインスティネットのサービスに一本化しました。投資銀行部門では日本とアジア以外の地域では取り扱い分野の絞り込みをしました。筋肉質な体制にすることで、全地域で黒字化できるように組み替えました。

13年3月期の決算は前年比2.8倍の増益となる2377億円の税前利益でした。とくに営業部門は中期目標を上回る1006億円と好調でした。しかしこれは市場好転のおかげ。本当の正念場はこれからです。