臨床にもとづき判断値を見直し

さらに、検査値の目安については「オプティマル・レンジ」(理想の範囲)と呼ばれる、独自の臨床にもとづいた判断値を用いている。もちろんオプティマル・レンジの大半は他の健康診断の基準値内に収まるのだが、「なかには基準値を外れているものもあって、その代表格がコレステロールです」と溝口院長はいう。

「実はコレステロールが増えると健康にマイナスになるというエビデンスは乏しいのです。私たちオーソモレキュラー療法の臨床現場でも、そうした実感を強く持っています。そこで一般健診で総コレステロールは120~219ミリグラム/デシリットルが基準値ですが、オプティマル・レンジはそれよりも高めに設定しているのです」

しかし、臨床を重んじるオーソモレキュラーだけに一度設定した判断値に固執することはなく、関連医療機関からのデータを含めて3~6カ月ごとに評価し、現実に則するように変更している。

実際の診断では、ある検査値がオプティマル・レンジ内に収まっていたとしても、それだけで安心することはない。他の検査項目との関連を複合的に見て、そのちょっとしたバランスの崩れから体のなかの異常なシグナルを発見していく。だからオーソモレキュラー療法に携わる医師には、栄養に対する深い理解と、検査値に対する洞察力を絶えず養っていく努力が求められている。

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CASE2:20代うつ病の女性。基準値内なのに強い症状。7カ月で回復

また、強い疲労感や抑うつ感、理由のない不安感などを訴えていた20代の女性もこの治療に救われた一人である。最近ではメンタルの不調を訴える女性の部下に頭を悩ましている上司も少なくないはず。彼女はほかの医療機関でうつ病や不安障害と診断されて治療を受けていたのだが、一向によくならずに悩んでいた。

そこで健診を実施したのだが、確かに一般健診の基準値では、肝機能、腎機能ともに正常と見なされても仕方がなかった。しかし、溝口院長はフェリチンの不足や、タンパク質の代謝が低下していることを見抜く(表を参照)。ビタミンB群や亜鉛の不足も判明した。そして、タンパク質や鉄などをサプリメントで摂取し、同時に糖質制限に取り組むことなどで、7カ月後には症状がほぼなくなり、治療薬も不要になったという。

新宿溝口クリニック院長 溝口 徹
1964年、神奈川県生まれ。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病研究センターを経て、96年に辻堂クリニックを開設。2003年、日本初の栄養療法専門の新宿溝口クリニックを開設。
(加々美義人=撮影 PIXTA =写真)
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