コミュニケーションは、多様な要素の複合体(発信側だけでも「伝え手」「伝える中身」「伝え方」が関係している)である。経営者の話を分析していくと、いかなるときにも有効な「普遍原理」のようなものが確かに存在している。ここでは、それぞれの経営者が見出した「伝え方」を考察してみよう。

3度左遷されても正しいことは主張した

ニコン元取締役会長
苅谷道郎氏

とことん考え抜き、書きとめる習慣は現場で研究に携わっていたときからだ。私は過去に3回左遷され、一度は窓の外まで飛ばされたが、それも自分で考えて正しいと思ったことを率直にいって、上司と衝突したのが原因だった。ただ、その結果として今の自分がある。

考えることに時間をかける一方で、徹底して時間をかけずにスピード化を図るのが情報伝達だ。

ニコンでは部長クラス以上は毎週、週報を上司、カンパニー長、役員、そしてトップ宛に日曜夜までに、階層や部門を超えて、メールで送らなければならない。月曜日に開かれる経営会議などの定例会議では出席者全員が週報に目を通していることが前提になる。私が読む週報は毎週300通に達する。

常に最新の情報を収集するのは、情報なくしては即断即決ができないからだ。各組織ユニットには一定の権限を持たせ、権限内では自分たちで判断してスピーディに動く“ゲリラ組織化”を進めるが、レポートは必ず週報で上げさせる。

当然、トップが判断しなければならない案件も出てくる。そのときになって情報を検討したのでは動きが滞ってしまう。

(08年2月18日号当時・社長 構成=勝見 明)

奈良雅弘氏が分析・解説

ここで紹介したのは、「部下を動かす」ためには、どんな「伝える(指示する)」が望ましいかに関するものである。

「良い指示」であるための最大の条件は、相手(部下)が「動きやすい」ということである。たとえば抽象的な指示よりも具体的な指示のほうが動きやすいだろうし、一時に多くを言わず、焦点を絞ったほうが動きやすいに決まっている。相手の動きは大きく変わってくるはずである。

アール・アンド・イー合同会社代表 奈良雅弘 
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。