【田原】日本の市場について伺います。今の日本は消費が飽和し、みんなたらふく食べて、お腹が膨れている。もうそんなにほしくないという消費者に買ってもらうためには、どんな工夫をされているのですか。

【鈴木】食べものだったら、新しくておいしいものを提供し続ける。ただ、おいしいものには、もう一つ意味があって、それは飽きるということです。おいしいものほど早く飽きる。

【田原】そこなんです、鈴木さんの発想のユニークなところは。飽きられたらどうするんでしょう。

【鈴木】飽きられる前にその上をいく商品を投入する。例えば、昨年発売した「金の食パン」は、1斤6枚入りが250円(税込み、当時)と、製パン大手の売れ筋より5割以上の値段でしたが、おいしさが支持され、大人気商品になりました。これが発売されたその日に、私は開発担当者に、すぐにリニューアルに着手するように指示しました。リニューアル版は6カ月後に発売され、その後も手を休めず、リニューアルは1年間で計3回行いました。そこまで徹底しなければ、お客様の支持は得られません。結果は年間で3500万食という驚異的な数字に表れました。

【田原】鈴木さんの著書(『売る力』文春新書)で、ビートたけしやとんねるずなど、長年人気を保ってきた芸能人が飽きられずに売れ続けてきた理由について触れていますね。

【鈴木】あれはプロデューサーの秋元康さんと対談したときに伺った話です。ビートたけしさんたちは、そのときどきで話題になっていることをネタにして、世の中の変化に対応しながら、それを自分の視点を通して、何か面白いことをいったり、やったりしてくれる。その視点が面白いので飽きられないというのです。

【田原】視点は、どんなものでしょう。

【鈴木】常に「顧客の立場で」考える。そのことを徹底するため、「真の競争相手は同業他社ではなく、絶え間なく変化する顧客のニーズである」といういい方もよくします。実際、私自身、ローソンさんやファミリーマートさんのお店には一歩も入ったことがありません。