「『こんなに早く買っちゃう人って、いるの?』『それ、営業にとっては最高の褒め言葉ですよ』といった会話をよくします。お客様は迷っておられるので、そこで後ろから押させていただく感じでしょうか。価格の話は最初からはしません。最後に『もしいま、決めていただければこんな感じ』という程度にとどめます」

本人は「ある程度の台数をこなしている方は、そこは同じだと思います」と謙虚というか自然体というか。ここまで肩の力が抜けた答えをされると売れる秘訣が窺いにくいが、その手掛かりとなりそうなのが、サッカー日本代表のキャプテン、長谷部誠の著書『心を整える。』だ。

同書はVWジャパン販売の社長が社員向けに定期的に出している推奨本の中の1冊だった。ここに話を向けると、根本氏の発する淡々とした言葉が徐々に熱を帯びてきた。

「著者は私より10歳くらい年下で、ごく当たり前のことが書いてある。おこがましいのですが、自己啓発の本でここまで共感を持てたものはあまりありません。自分の理想というか、自分ができてなくて少しでもそうしたい、ということが書いてある」

たとえば……とピックアップした一つが、「努力や我慢はひけらかさない」。

努力や我慢は秘密にすべきだ。なぜなら、周囲からの尊敬や同情は自分の心の中に甘えを呼び込んでしまうから。(中略)「痛いけど、頑張ります」と答えるのは、『100%のプレーができないと思いますけど、許してくださいね』と言い逃れをしているようだ(114ページ)。

ここを読むと、根本氏の控えめな話し方がなぜなのかがよくわかる。聞けば新入社員の頃、販売台数1位になり新人賞を取った経験もあるという。

「入社3カ月目くらいのとき、名刺を配ったら偶然売れたことがあって。ラッキーだったんです」

人見知りという根本氏が、まったく努力せずに売れたわけではないだろう。ただ、それをひけらかすことはしない。